50歳の男性。アルコール依存症。大学を卒業後、就職したころから飲酒が始まる。転勤で一人暮らしになってから飲酒量が増加し、仕事もやめ昼夜問わずに飲み続けるようになった。その後、精神科病院を受診し入退院を繰り返す。主治医には「酒はもうやめます」と言いながらも退院後に再飲酒していた。作業療法士には「酒をやめたいのは本当だが、退院しても仕事が見つからないのでつい飲んでしまう。何とかしてほしい」と話す。この患者の心理状態として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
患者は「酒をやめたい」という意思を持ちながらも、「仕事が見つからない不安」から飲酒を続けてしまうという、相反する二つの感情や衝動を同時に抱えています。これは、アルコール依存症の回復過程でしばしば見られる『両価性(アンビバレンス)』と呼ばれる心理状態です。変化への意欲と現状維持への欲求が同時に存在するため、行動変容の困難さにつながります。
選択肢ごとの解説
- 1. 否認は、問題があることを認めようとしない心理状態を指します。この患者は「酒をやめたい」と意思を表明しており、飲酒が問題であると認識しているため、否認の状態ではありません。正しくは:否認は、自身の問題行動(この場合は飲酒)がもたらす悪影響や、その行動自体を認めようとしない状態を指します。選びやすい理由:アルコール依存症の初期段階では否認がよく見られますが、本症例では自身の問題を認識し助けを求めている点で異なります。混同注意:飲酒行動の正当化と混同しやすいですが、否認は問題そのものを認めない状態です。
- 2. 共依存は、特定の人物(多くは依存症者)との関係性において、その人物の行動をコントロールしようとしたり、過度に世話を焼いたりすることで自身の存在意義を見出す心理状態を指します。この選択肢は患者自身の心理状態ではなく、他者との関係性に関するものであるため、不適切です。正しくは:共依存は、主に依存症者の家族など、周囲の人間が依存症者の問題行動を助長してしまうような関係性を指します。選びやすい理由:アルコール依存症の問題ではよく耳にする言葉ですが、これは患者本人ではなく周囲の人の状態を指すことが多いため、注意が必要です。混同注意:患者自身の心理状態と、患者を取り巻く家族や関係者の心理状態を混同しやすいです。
- 3. 正解。両価性(アンビバレンス)とは、ある物事に対して相反する感情や衝動を同時に抱える心理状態を指します。この患者は「酒をやめたい」という気持ちと、「仕事が見つからない不安から飲んでしまう」という飲酒を続ける誘惑の間で揺れ動いており、まさに両価性の状態にあります。
- 4. 自己中心は、他者の視点や感情を考慮せず、自身の欲求や利益を最優先する態度を指します。この患者の発言からは、自身の飲酒問題や将来への不安を認識しており、単に自己中心的な態度とは言えません。正しくは:自己中心とは、自分の考えや行動が全て正しいと思い込み、他者の意見や感情を顧みない態度を指します。選びやすい理由:アルコール依存症の患者が家族などに迷惑をかける行動から、自己中心的だと捉えられがちですが、本症例で問われているのは患者の内面的な心理状態です。混同注意:依存症による行動の結果と、患者の根本的な性格や心理状態を混同しやすいです。
- 5. 刹那主義は、将来を考慮せず、目先の快楽や欲求のみを追求する生き方を指します。この患者は「仕事が見つからない不安」といった将来への懸念を抱いており、飲酒もその不安からの逃避と捉えられているため、単なる刹那主義とは異なります。正しくは:刹那主義とは、長期的な計画や結果を考えず、その場限りの快楽や満足を追求する行動原理を指します。選びやすい理由:飲酒が目先の快楽をもたらすため、刹那主義と関連づけやすいですが、本症例では将来への不安が動機に含まれています。混同注意:目先の行動と、その行動の背景にある心理的な動機を混同しやすいです。
国試ポイント
アルコール依存症患者の心理状態を問う問題で、特に回復過程における「両価性」の理解が重要です。各選択肢の心理学用語の意味を正確に把握しているか、具体的な事例に当てはめて判断できるかが問われます。他者との関係性や行動の結果ではなく、患者の内面的な葛藤を捉える視点が必要です。
混同注意
「否認」や「自己中心」はアルコール依存症と関連する言葉ですが、本ケースの患者の言葉からは自身の問題認識と助けを求める姿勢が見られるため、これらは不適切です。「共依存」は患者本人ではなく周囲の人の状態を指し、「刹那主義」は表面的な行動のみを捉えたもので、内面的な葛藤を含んでいません。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、患者の具体的な発言や行動から、その裏にある感情や思考の矛盾、葛藤を読み取れるかがポイントとなります。特に「〜したいけれど、〜なのでできない」といった相反する要素が含まれる場合は「両価性」を疑う視点が重要です。
関連知識
アルコール依存症の回復段階(行動変容ステージモデル)において、この「両価性」は『熟考期(contemplation stage)』によく見られます。この時期の介入としては、動機づけ面接などが有効とされます。また、依存症における否認、防衛機制、共依存といった概念も理解しておく必要があります。