32歳の女性。アルコール依存症。美容師として働く兼業主婦。25歳ごろから飲酒量が増えた。現時点では、仕事や家事に大きな支障はない。このまま飲酒を続けていると大変なことになると思い、飲酒量を減らそうと努力しているが、飲み始めるといつも深酒してしまう。1人の力では断酒できないと悩み、自ら精神科病院を受診し入院治療を受けることになった。回復を目的とした作業療法の評価で最も重要度が高いのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この事例の女性は、飲酒コントロールの問題を自覚し、自らの意思で治療を求めています。これは病識があり、自身の飲酒行動やそれによって生じる問題について深く悩んでいる状態です。アルコール依存症の回復過程では、自己の飲酒行動に対する認識、感情、思考パターンを振り返り、それに対する自己評価を適切に行うことが不可欠です。不適切な自己評価は、再飲酒のリスクを高めたり、回復への動機付けを妨げたりする可能性があります。作業療法では、活動を通して自己の行動パターンや感情を客観的に評価し、肯定的な自己像を再構築することを目指します。そのため、治療の初期段階において、患者の自己評価の現状を把握することが最も重要度の高い評価項目となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 見当識はアルコール依存症の急性期や脳器質的な問題がある場合に重要ですが、このケースでは仕事や家事に大きな支障がないと記載されており、優先度は低いと考えられます。正しくは:見当識の障害が顕著な場合(例:急性期のせん妄状態、コルサコフ症候群など)に評価の優先度が上がります。選びやすい理由:一般的な精神疾患患者の評価項目であるため、迷う可能性があります。混同注意:急性期の離脱症状やアルコールによる脳機能障害の評価と混同しやすいです。
- 2. 基礎体力は回復過程で重要になることもありますが、この女性は仕事や家事に大きな支障がない状況であり、飲酒コントロールの問題が主な訴えであるため、現時点での評価の最優先事項ではありません。正しくは:離脱症状により身体活動性が低下している場合や、活動再開に向けての体力増進が目標となる場合に評価の優先度が上がります。選びやすい理由:長期的な回復には体力も必要であるという点で選択肢として魅力的に映るかもしれません。混同注意:病識はあるが身体的な介入が必要なケースや、リハビリテーション全般の初期評価項目と混同しやすいです。
- 3. 金銭管理は社会生活を送る上で重要ですが、この女性は仕事や家事に支障がないとされており、金銭管理に直接的な問題が生じているとは読み取れません。アルコール依存症の末期には問題となることが多いですが、現時点では最優先ではありません。正しくは:アルコール使用により金銭的な問題(借金、浪費など)が顕著な場合や、社会復帰後の自立生活に向けた準備段階で評価の優先度が上がります。選びやすい理由:アルコール依存症が進行すると金銭トラブルが生じることが多いため、一般的な知識として選択肢として考えるかもしれません。混同注意:アルコール依存症の症状による具体的な生活問題(就労、金銭問題など)の有無と、自己認識や精神状態の評価の優先順位と混同しやすいです。
- 4. 正解。この女性は、飲酒のコントロールができず「このままでは大変なことになる」という強い危機感を持ち、自ら入院を決意しています。これは病識があり、現状の自己認識に課題を感じていることを示唆します。アルコール依存症の回復には、自己の飲酒行動や感情、思考パターンを深く理解し、それに対する自己評価を適切に行うことが不可欠です。作業療法では、自己評価の改善を通じてセルフケア能力や対処行動の向上を目指します。特に、自ら入院してきた患者にとって、自己評価は治療への意欲や動機付けに直結するため、最も重要な評価項目の一つです。
- 5. 日常生活能力(ADL/IADL)は、多くの精神疾患患者の評価で重要ですが、この女性は「仕事や家事に大きな支障はない」と明記されており、基本的な日常生活能力に問題があるわけではないため、現時点での最優先評価項目ではありません。正しくは:日常生活能力に明らかな低下がある場合(例:セルフケアが困難、家事が全くできないなど)に評価の優先度が上がります。選びやすい理由:作業療法の基本的な評価項目であり、多くの患者に適用されるため、選択肢として選びやすいです。混同注意:身体機能障害や認知症など、日常生活動作に直接的な支障をきたす疾患の評価項目と混同しやすいです。
国試ポイント
アルコール依存症患者に対する作業療法評価において、患者の病識の有無や、治療への主体的な姿勢、そして回復の鍵となる心理社会的な側面を問う問題です。単なる機能評価だけでなく、患者の精神状態や治療段階に合わせた評価の優先順位を理解しているかが問われます。
混同注意
一般的な精神疾患の評価項目(ADL、認知機能など)と、アルコール依存症回復において特に重視される心理社会的な側面(自己評価、病識、動機付け)の区別がポイントです。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず患者が『自ら治療を求めているか(病識があるか)』『生活機能に具体的な支障があるか』という点に着目し、病識がありながらも飲酒コントロールに悩んでいる場合は、自己認識や精神状態に関する評価(自己評価、病識、動機付けなど)を優先的に検討します。
関連知識
アルコール依存症の治療には、疾病教育、自助グループ(AAなど)、心理療法(認知行動療法など)が用いられます。作業療法では、生活リズムの再構築、問題解決能力の向上、ストレス対処法の習得、趣味活動を通じた代替行動の促進などを支援し、自己効力感や自己評価の向上を目指します。回復過程において、特に自己評価の適切な調整が重要となります。