32歳の女性。統合失調症。デイケアに通所しているが、いつも人を避けるように過ごしていることが多い。スタッフが面談の中でその理由を尋ねると「会話をしていると、途中から何を話しているのか分からなくなります。それが恐くて人と話をする自信がないです」と訴えた。この患者の症状の評価で最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
患者の訴え「会話をしていると、途中から何を話しているのか分からなくなる」は、統合失調症でよく見られる認知機能障害、特に注意、情報処理速度、ワーキングメモリ、言語理解などの障害を示唆しています。BACS-Jは統合失調症患者の認知機能障害を包括的に評価するために設計されたバッテリーであり、これらの領域をカバーしているため、患者の具体的な症状の評価に最も適しています。
選択肢ごとの解説
- 1. GAFは精神疾患患者の全体的な機能レベルを評価する尺度ですが、患者の具体的な認知機能の障害(この場合は会話の理解困難)を詳細に評価するものではありません。正しくは:GAFは精神機能の全体的評価に用いられ、個別の認知機能障害の評価には不向きです。選びやすい理由:精神機能の全体像を把握するためには有用ですが、具体的な認知機能の障害の根拠を評価するものではないため、この事例の『会話が分からなくなる』という訴えの原因究明には適していません。混同注意:患者の全体的な社会適応や生活機能の評価ツールと、特定の認知機能障害の評価ツールとの違い。
- 2. BADSは実行機能障害を評価する検査ですが、この患者の「会話が分からなくなる」という訴えは、実行機能よりもむしろ言語理解や処理速度、注意機能といった基本的な認知機能の障害を示唆しており、BADSは直接的にその困難さを捉えるものではありません。正しくは:BADSは計画、問題解決、行動の抑制などの実行機能を評価するものであり、会話の理解困難を直接評価するものではありません。選びやすい理由:統合失調症では実行機能障害もよく見られますが、本ケースの「何を話しているのか分からなくなる」という具体的な訴えには、より直接的な認知機能評価ツールが適しています。混同注意:実行機能障害と、言語理解や注意機能の障害の違い。
- 3. WCSTは概念形成能力や注意の転換、課題解決能力といった実行機能を評価する検査であり、この患者が訴える「会話内容の理解困難」という言語性認知機能の障害を直接的に評価するものではありません。正しくは:WCSTは主に概念形成や思考の柔軟性、注意の転換といった実行機能を評価するものであり、言語理解の困難さを直接評価するものではありません。選びやすい理由:統合失調症の認知機能障害を評価する代表的な検査の一つですが、本ケースの具体的な訴えの評価には適していません。混同注意:異なる種類の認知機能(実行機能、言語機能、記憶など)を評価する検査の違い。
- 4. Rehabは精神障害者の生活技能や生活実態を評価する尺度であり、特定の認知機能の障害(会話の理解困難)を詳細に評価するものではありません。どちらかというと、認知機能障害が生活に与える影響の全体像を把握するためのものです。正しくは:Rehabは精神障害者の生活技能や生活実態を評価する尺度であり、具体的な認知機能障害の直接的な評価には適していません。選びやすい理由:デイケアに通所している患者の生活実態を把握するのに有用ですが、会話困難の原因である認知機能の評価には不向きです。混同注意:生活機能評価尺度と、特定の認知機能障害評価尺度の違い。
- 5. 正解。BACS-Jは、統合失調症患者の主要な認知機能領域(言語性記憶、ワーキングメモリ、運動速度、注意・情報処理速度、言語流暢性、実行機能)を簡便かつ包括的に評価するために開発されたバッテリーです。この患者の「会話をしていると、途中から何を話しているのか分からなくなる」という訴えは、注意・情報処理速度やワーキングメモリ、言語理解などの認知機能障害を示唆しており、BACS-Jはこれらの領域を総合的に評価できるため、この状況の評価に最も適しています。選びやすい理由:他の選択肢が広範な機能評価や特定の実行機能評価であるのに対し、BACS-Jは統合失調症に特化した、より詳細な認知機能評価バッテリーであるため、患者の具体的な訴えの原因となる認知機能の特定に最も適しています。混同注意:統合失調症に特化した認知機能評価バッテリーと、一般的な神経心理学的検査や精神機能評価尺度の違い。
国試ポイント
統合失調症患者の具体的な認知機能障害の訴えに対し、その評価に最も適切な検査バッテリーを選べるかが問われています。特に、統合失調症に特化した認知機能評価バッテリーの知識が重要です。
混同注意
GAF、BADS、WCST、Rehabといった、異なる目的を持つ評価ツールと混同しやすい。それぞれの尺度が評価する機能領域の違いを正確に理解しておく必要があります。特に、全体的な機能評価、特定の実行機能評価、生活機能評価と、統合失調症に特化した包括的な認知機能評価の違いが重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出題された場合、まず患者の訴えがどの認知機能領域(記憶、注意、実行機能、言語、情報処理速度など)に該当するかを特定し、次にその領域を包括的または特異的に評価できる適切な検査バッテリーや評価尺度を選択できるかが問われます。
関連知識
BACS-Jの他にも、MATRICS Consensus Cognitive Battery (MCCB)など、統合失調症に特化した認知機能評価バッテリーが存在します。また、各検査の評価対象(記憶、注意、実行機能、情報処理速度など)と、統合失調症で障害されやすい認知機能の知識も関連します。