55歳の男性。アルコール依存症に肝機能障害を合併。仕事上のトラブルから連続飲酒状態となり入院治療に至った。退院後、依存症専門デイケアを利用することになったが、少し位なら飲んでも大丈夫と思っている様子であった。妻同伴で担当作業療法士と面接を行った際に再発予防のための助言を受けることとなった。作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
アルコール依存症の治療において、自助グループ(A.A.など)への参加は再発予防のための重要な支援策です。患者が「少しなら飲んでも大丈夫」と考えている状況は再発リスクが高く、同じ問題を抱える仲間からの直接的な経験談は、患者自身の認識を変え、断酒への決意を強化する強力な動機付けとなりえます。作業療法士は、リハビリテーションの一環として、社会資源の活用を促すことも重要な役割です。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の断酒の意思の弱さを直接指摘することは、患者の自己肯定感を損ない、治療関係に悪影響を与える可能性があります。依存症治療においては、共感的な態度で患者の動機付けを高めることが重要です。正しくは:患者の断酒に対する意欲が揺らいでいることに対して理解を示し、患者が自身の問題に気づき、行動変容できるよう支援する姿勢を取るべきです。例えば、「少しなら大丈夫」と思う気持ちを尊重しつつ、その考えが再飲酒につながるリスクを共に検討するなど、傾聴と共感を基本とします。選びやすい理由:一見、患者の問題点を明確にすることで改善を促せるように思えるかもしれませんが、依存症の治療においては逆効果になりがちです。混同注意:患者の行動変容を促すための「 confrontation(対決)」と混同しやすいですが、依存症治療におけるconfrontationは、非難や攻撃ではなく、共感的かつ建設的な対話を通じて問題行動の認識を深めるものです。
- 2. アルコール依存症の患者に対して「少量なら飲んでも良い」と勧めることは、再飲酒へのゲートウェイとなり、完全に断酒するという目標から逸脱させる危険性があります。依存症治療の基本は完全断酒です。正しくは:アルコール依存症の治療においては、いかなる量の飲酒も再発につながるリスクがあるため、完全な断酒を目標とします。飲酒したい気持ちへの対処法として、飲酒以外のストレス対処法や気分転換の方法を提案すべきです。選びやすい理由:一般的な飲酒習慣においては節酒が有効な場合もありますが、アルコール依存症患者にとっては「少量」という概念がコントロール不能な大量飲酒に直結するため、非常に危険な助言です。混同注意:節酒と断酒の原則を混同しやすいです。アルコール依存症治療では原則として断酒が求められます。
- 3. 患者の行動を監視する役割を家族に求めることは、家族関係に過度な負担をかけ、患者の自律性を損なう可能性があります。また、家族が監視役となることで、家族全体がストレスを抱えやすくなります。正しくは:妻には、患者の支援者として、共感的に寄り添い、再発予防のための環境整備や情報提供を行う役割を期待すべきです。具体的には、家族も依存症について学び、共依存の関係に陥らないように支援し、必要であれば家族会への参加も促します。選びやすい理由:家族が最も身近にいるため、状況把握に役立つと考えるかもしれませんが、治療の責任を家族に押し付ける形になってしまいます。混同注意:家族支援と家族への監視依頼を混同しやすいです。家族支援は、家族自身の負担軽減や適切な対応方法の習得を目的とします。
- 4. 体力回復のための食事管理は重要ですが、今回の面接の主目的はアルコール依存症の再発予防に関する助言です。体力回復は間接的な支援であり、現在の状況で最も優先すべきは依存症治療への具体的な介入です。また、食事管理も妻に過度な負担をかける可能性があります。正しくは:体力回復も重要ですが、再発予防の助言という文脈では、依存症に特化した介入を優先すべきです。食事管理については、必要に応じて栄養士と連携するなど、多職種連携で対応を検討します。妻には、直接的な食事管理の依頼ではなく、患者の健康をサポートする一般的な役割について話し合うのが適切です。選びやすい理由:肝機能障害があるため、食事管理が重要であるという点で正しい知識が含まれているため、選びやすい選択肢です。しかし、問題は「再発予防のための助言」と「最も適切な対応」を求めています。混同注意:依存症治療全体における「身体的健康の管理」と、この面接の主目的である「再発予防の助言」を混同しやすいです。
- 5. 正解。Alcoholics Anonymous (A.A.) は、アルコール依存症からの回復を目指す当事者たちの自助グループであり、再発予防において非常に有効な手段の一つです。同様の体験を持つ仲間との交流は、断酒継続へのモチベーション維持、回復モデルの獲得、孤立感の軽減に繋がります。患者が「少しなら大丈夫」と考えている現状に対して、自助グループの仲間からの体験談は、その考えの危険性を具体的に認識させ、断酒への意識を高める効果が期待できます。
国試ポイント
アルコール依存症の再発予防における作業療法士の役割と、適切な社会資源の活用に関する知識が問われています。特に、患者の不適切な飲酒認識(「少しなら大丈夫」)に対する具体的な介入方法の理解が重要です。
混同注意
アルコール依存症治療における多職種連携、家族支援、身体的合併症への対応といった側面と、自助グループの役割を混同しやすいです。問題文の状況と、最も直接的に再発予防に繋がり、患者の不認識を正すことができる選択肢を見極める必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、患者の現在の心理状態や直面している課題に対して、最も効果的かつ直接的に介入できる方法、特に社会資源の活用を含めた包括的な視点から「最も適切な対応」を選ぶことが求められます。
関連知識
アルコール依存症の回復プロセス、断酒の重要性、自助グループ(A.A., NAなど)の役割、動機付け面接、家族支援、作業療法の生活習慣への介入。特に、依存症の治療には、精神科医療機関だけでなく、地域のリソース(自助グループ、断酒会、相談窓口など)の活用が不可欠であるという視点が求められます。