68歳の女性。くも膜下出血後の四肢麻痺のため作業療法を行っている。現在、四肢の麻痺は、ほぼ認めない。高次脳機能障害が残存しMMSEを実施した。結果(別冊No. 1)を別に示す。次に行う検査で最も優先されるのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
MMSEの結果から、患者は「今の季節は何か」が「春」、「何階ですか」が「3階」と答えていますが、日付や曜日は正しく回答できており、見当識障害の項目で一部失点しています。また、「時計を見せながらこれは何か」「鉛筆を見せながらこれは何か」に失点はありません。注目すべきは、MMSEの9項目「次の文章を読んで、その指示に従ってください」「目を閉じなさい」で「なさい」と書かれており、得点が0点であることから、左半側空間無視が疑われます。右側の情報には反応できるが、左側の情報を見落とす特徴を持つ半側空間無視の評価には、BIT(行動性無視検査)が最も優先されます。
選択肢ごとの解説
- 1. AMPS(Assessment of Motor and Process Skills)は、日常生活活動(ADL)遂行能力を評価するもので、本症例で疑われる半側空間無視の直接的な評価としては優先度が低いです。正しくは:ADL遂行能力の評価が必要な場合に用いられます。半側空間無視の直接的な評価には適しません。選びやすい理由:高次脳機能障害によってADLに影響が出ている可能性があり、ADL評価の必要性を感じさせるため。混同注意:BADSやRBMTといった高次脳機能障害の具体的な評価検査ではなく、ADLの評価という点で混同しやすい。
- 2. BADS(Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome)は、実行機能障害を評価する検査です。MMSEの結果から実行機能障害が強く示唆される所見はなく、半側空間無視の兆候がより明確であるため、BADSの優先度は低いです。正しくは:実行機能障害が疑われる場合に用いられます。MMSEの9項目の失点からは半側空間無視が強く示唆されており、この状況では優先されません。選びやすい理由:高次脳機能障害の検査として有名であるため。しかし、MMSEの結果から特定の障害を絞り込む必要があります。混同注意:BITやRBMTといった他の高次脳機能障害検査。それぞれ評価対象が異なります。
- 3. 正解。MMSEの9項目「次の文章を読んで、その指示に従ってください」「目を閉じなさい」で「なさい」と書かれているにも関わらず、得点が0点であることは、左側の文字が見えていない、すなわち左半側空間無視を強く示唆しています。BIT(行動性無視検査)は半側空間無視を評価するための標準的な検査であり、この状況で最も優先すべき検査です。選びやすい理由:設問のMMSEの所見を正確に読み取り、半側空間無視を疑うことができれば正答にたどり着きます。混同注意:他の高次脳機能障害検査との区別。MMSEの特定の失点箇所から推測される障害に合致する検査を選択することが重要です。
- 4. RBMT(Rivermead Behavioural Memory Test)は、記憶障害を評価する検査です。MMSEの5項目「3で提示した物品名を再度復唱させる」は3点と満点であり、記憶障害の兆候は明確ではありません。したがって、記憶障害の評価であるRBMTの優先度は低いです。正しくは:記憶障害が疑われる場合に用いられます。本症例では記憶障害の明確な兆候がMMSEにないため、この状況では優先されません。選びやすい理由:高次脳機能障害として記憶障害も一般的であるため。しかし、MMSEの所見から記憶障害の可能性は低いと判断されます。混同注意:BITやBADSといった他の高次脳機能障害検査。MMSEの所見と各検査の評価対象を正確に結びつける必要があります。
- 5. VPTA(Visual Perception Test for Agnosia)は、視覚失認を評価する検査です。MMSEの6項目「(時計を見せながら)これは何か」「(鉛筆を見せながら)これは何か」はそれぞれ1点と満点であり、視覚失認の兆候は認められません。したがって、VPTAの優先度は低いです。正しくは:視覚失認が疑われる場合に用いられます。本症例では視覚失認の兆候がMMSEにないため、この状況では優先されません。選びやすい理由:画像系の高次脳機能障害の検査として選択肢に入りやすい。しかし、視覚失認と半側空間無視は異なる障害です。混同注意:BIT。両者とも視覚に関連する障害の評価ですが、VPTAは視覚失認、BITは半側空間無視と評価対象が異なります。
国試ポイント
高次脳機能障害のスクリーニング検査であるMMSEの結果から、具体的な高次脳機能障害(特に半側空間無視)を特定し、その上で必要な詳細評価検査を選択できるか。
混同注意
MMSEは広範な高次脳機能障害をスクリーニングする検査であり、特定の高次脳機能障害の診断には不十分です。そのため、MMSEの結果から示唆される特定の障害(この場合は半側空間無視)に対して、より特異性の高い検査(BIT)を選択する必要があります。単に高次脳機能障害があるからといって、包括的なADL評価や記憶検査などを漫然と選択しないように注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合は、まずMMSEの各項目の失点箇所を詳細に確認し、どの高次脳機能障害の傾向があるかを推測します。特に、無視症状を示唆するような視覚的探索や課題遂行のパターンがあれば、BITを最優先に検討します。文章読解で左側が無視されている、線分抹消で右側ばかり消しているなどの所見は、半側空間無視の可能性が高いです。
関連知識
半側空間無視は、脳損傷(特に右半球の損傷)により、対側(左側)の空間に存在する刺激を認識・応答できない状態を指します。MMSEで9項目「次の文章を読んで、その指示に従ってください」「目を閉じなさい」に「なさい」と書いてあるのに得点が0点であることは、左側の指示が見えていない、つまり左半側空間無視を示唆します。BITは、線分抹消試験や文字抹消試験、模写など、複数の下位検査から構成され、半側空間無視の有無や重症度、病態を評価します。くも膜下出血は、脳の広範囲に影響を及ぼす可能性があり、MMSEでの部分的失点は、より詳細な評価が必要であることを示唆しています。