40歳の女性。保険会社の営業職。くも膜下出血の診断で開頭クリッピング術が施行され、現在、回復期リハビリテーション病院に入院している。事務職への配置転換が可能であるが、本人は営業職への復職を希望している。身体機能に問題はない。Barthel Index 100点、HDS-R 25点、Kohs立方体組合せテストIQ 88、BIT 141点、RBMT標準プロフィール14点、BADS総プロフィール8点、TMT-A 120秒、TMT-B 145秒であった。復職に向けた作業療法として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この患者は、RBMT(記憶障害)とBADS(実行機能障害)のスコアが低く、TMT-A/Bの遅延も注意や処理速度の低下を示唆しています。営業職は、顧客の名前や特徴、商談内容、約束の時間など、多岐にわたる情報を記憶し、スケジュールやタスクを管理する実行機能が不可欠です。メモリーノートは、このような記憶や実行機能の障害を補うための効果的な代償手段となります。単にメモリーノートを提供するだけでなく、個々の患者の認知特性に合わせて、その「効果的な活用方法」を具体的に指導することが、仕事復帰における自立性を高める上で最も適切な作業療法介入となります。他の選択肢は、本事例の状況に対して不適切であるか、優先度が低い介入方法です。
選択肢ごとの解説
- 1. 本人の希望は尊重すべきですが、提示された認知機能評価(特にKohs立方体IQ88、RBMT14点、BADS8点、TMT-A/Bの遅延)は、視空間認知、記憶、実行機能、注意、処理速度に障害がある可能性を示唆しています。これらの機能は営業職で必須であり、十分な支援なしに復職を積極的に推奨することは、失敗や負担増につながるリスクが高いです。正しくは:認知機能の詳細な評価に基づき、必要な代償手段の導入や環境調整を検討し、段階的な復職計画を立てる。その上で、目標としての営業職復帰を共有し、支援していく。選びやすい理由:患者の希望を尊重したいという思いや、身体機能に問題がないという記載から、安易に復職を勧めてしまいがちです。混同注意:患者中心の医療と、現実的な機能評価に基づくリスク管理や具体的な介入計画の必要性を混同しやすいです。
- 2. 記憶障害や注意障害が示唆される患者に対し、課題中の誤りを翌日指摘しても、その時点では何について指摘されているのかを思い出せず、学習効果が得られにくいです。また、混乱や意欲低下を招く可能性もあります。フィードバックはできるだけ即時的かつ具体的に行うべきです。正しくは:課題遂行中、あるいは直後に、具体的な誤りや改善点について、簡潔かつ分かりやすい言葉でフィードバックを行う。選びやすい理由:直接的な指摘を避けたい、あるいは冷静に分析してから伝えたいという思いから、時間をおいて指摘しようと考えるかもしれません。混同注意:一般的な教育的指導と、認知機能障害を持つ患者への効果的なフィードバック方法を混同しやすいです。
- 3. スタッフを固定することは、患者が安心して関われる、情報伝達が一貫するなどのメリットもありますが、最も優先すべき復職に向けた直接的な介入とは言えません。また、特定のスタッフへの過度な依存を招く可能性や、異なる視点からの支援機会を失うリスクもあります。正しくは:複数のスタッフが関わる場合でも、情報共有を密にし、一貫した介入方針で対応することで、スタッフ固定によるメリットを一部補完しつつ、専門性の多角的活用を図る。認知機能障害に対しては、具体的な代償手段の導入や環境調整がより重要である。選びやすい理由:支援の一貫性や安心感を重視するあまり、この選択肢を選んでしまいがちです。混同注意:心理的な安定や情報の一貫性と、認知機能障害に対する具体的なリハビリテーション介入の優先順位を混同しやすいです。
- 4. 認知機能障害がある場合、個別訓練での集中した指導が必要な場面もありますが、営業職では他者とのコミュニケーションや協調性も不可欠であるため、グループ訓練で社会性を養うことも重要です。個別訓練に全てを移行することが「最も適切」とは限らず、状況に応じて両者を組み合わせるのが一般的です。また、今回の情報だけではどちらに移行すべきかの明確な根拠はありません。正しくは:患者の認知機能レベルと復職後の業務内容を考慮し、個別訓練とグループ訓練のバランスを適切に調整する。特定の課題には個別訓練、社会的スキル向上にはグループ訓練といった使い分けが有効である。選びやすい理由:認知機能障害がある場合、個別対応の方がより丁寧で効果的な介入だと考えがちです。混同注意:集中した個別指導の必要性と、社会的スキルや応用力を養うためのグループ活動の重要性を混同しやすいです。
- 5. 正解。患者はRBMT標準プロフィール14点(記憶障害を示唆)とBADS総プロフィール8点(実行機能障害を示唆)という低いスコアを示しており、これらの機能障害が営業職への復職の大きな障壁となります。営業職は顧客情報、スケジュール、商談内容など、多くの情報を記憶し、管理する能力が求められるため、メモリーノートは記憶の外部化、実行機能の代償手段として非常に有効です。単にメモリーノートを渡すだけでなく、「効果的な活用法を指導する」ことで、患者が自身の障害を補いながら自律的に業務を遂行できるよう支援することは、復職に向けた最も適切で具体的な作業療法介入です。選びやすい理由:この選択肢は、患者の認知機能評価結果と復職希望職種(営業職)の業務内容を考慮した上で、最も直接的かつ具体的な解決策となるため、迷う要素は少ないはずです。
国試ポイント
くも膜下出血後の高次脳機能障害(特に記憶障害、実行機能障害)を持つ患者に対する具体的な作業療法介入について、評価結果に基づいて最適な選択肢を選ぶ能力が問われます。特に、職業復帰を目指す上での代償手段の活用とその指導の重要性を理解しているかがポイントとなります。各認知機能検査の結果が実際の生活や仕事にどう影響するかを把握していることが前提となります。
混同注意
患者の希望を尊重したいという思いから、認知機能の課題を無視して安易に復職を勧める選択肢(選択肢1)を選んでしまうことがあります。また、リハビリテーションにおける一般的な配慮事項(スタッフ固定など)と、認知機能障害に対する具体的な代償手段指導の優先順位を混同することもあります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の問題が出題された場合、まず患者の主訴と希望する職業の種類を正確に把握します。次に、提示された認知機能評価結果から、どの機能に具体的な障害があるかを特定します。そして、その障害が患者の希望する職業で求められる能力とどのように関連するかを分析し、最も効果的な代償手段や介入方法を選択します。特に、記憶障害や実行機能障害がある場合には、メモリーノートなどの代償手段の活用指導が重要な選択肢となることが多いです。
関連知識
- 高次脳機能障害(記憶障害、実行機能障害、注意障害、視空間認知障害)の症状と代表的な評価方法(HDS-R、Kohs立方体組合せテスト、BIT、RBMT、BADS、TMT-A/Bなど)とその解釈。 - 職業復帰支援における認知リハビリテーションの原則と具体的方法。 - 代償手段(メモリーノート、リマインダー、チェックリストなど)の活用とその指導方法。 - 環境調整や周囲の理解と協力の重要性。