42歳の女性。統合失調症。定期的に訪問看護を受けながら社会生活ができている。服薬が不規則になったり、強いストレス状況下で時折幻聴があるが、ある程度は対処できている。本人は、一般就労を希望しており、訪問看護と外来作業療法で支援することになった。訪問看護師からの情報では、本人の部屋には服や食器が散乱しているとのことであった。開始当初の作業療法士の対応で最も優先すべきなのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
作業療法士がクライエントへの介入を開始するにあたり、最も優先すべきは、その人の関心、興味、価値観を把握することです。これは、クライエント中心の医療を提供する上で不可欠であり、治療関係の構築、目標設定、そしてその後の具体的な作業活動の選択と実施における動機付けの源となります。本人が就労を希望しているという情報があっても、どのような就労に興味があるのか、どのような活動に喜びを感じるのかを深く理解することで、より個別化された効果的な支援が可能になります。
選択肢ごとの解説
- 1. 部屋の整理整頓は生活環境の改善に繋がる重要な側面ですが、作業療法開始当初の最も優先すべき対応ではありません。まずは本人の内面的な要素を理解し、治療関係を構築することが先決です。正しくは:本人の就労目標達成に向けた生活習慣や環境調整の具体的な課題として、部屋の整理を検討する。選びやすい理由:訪問看護師からの具体的な情報なので、対応すべき課題だと感じやすい。生活習慣の乱れと捉えられがち。混同注意:環境調整や生活習慣指導の重要性と、初期のクライエント中心の評価・関係構築の優先順位。
- 2. 正解。作業療法におけるクライエント中心の支援では、本人の興味、関心、価値観を理解することが治療関係の構築、目標設定、および効果的な活動選択の基盤となります。就労という大きな目標がある中で、その実現に向けた動機付けや具体的な活動内容を共に探る上で、最も優先すべき初期の対応です。選びやすい理由:正しい選択肢であるため、他の選択肢と迷うことなく選べるべきですが、具体的な生活課題(服薬、部屋の乱れ)に対応したくなる誘惑があります。混同注意:具体的な症状や生活の困りごとへの直接的な介入と、その前提となるクライエントの全体像の把握や動機付けの重要性。
- 3. 服薬管理は統合失調症の安定には不可欠ですが、主に医師や看護師が主導する医療的介入の側面が強いです。作業療法士は日常生活の中での服薬管理を支援できますが、開始当初の最も優先すべき対応としては、本人の内発的な動機づけや関心を把握することの方が重要です。正しくは:服薬管理が本人の就労に向けた生活リズムの一部となるよう、本人の日常習慣の中で具体的な支援方法を共に検討する。選びやすい理由:統合失調症という診断と不規則な服薬という情報から、病状安定のために最重要だと錯覚しやすい。混同注意:医師・看護師の主な役割と作業療法士の役割の区別、および生活支援の中での服薬管理の捉え方。
- 4. 本人は幻聴があっても「ある程度は対処できている」とあり、訪問看護を受けながら社会生活を送れている状況です。この情報だけで直ちに入院治療を促すのは、本人の希望する地域生活継続や就労支援の方向性に反し、不適切です。まずは外来での支援を継続し、幻聴への対処法を共に検討すべきです。正しくは:幻聴への対処法について、本人のこれまでの経験や現在の困り感を踏まえ、外来での作業療法で具体的な支援を検討する。選びやすい理由:幻聴という精神症状に対し、安全確保の観点から入院を勧めたい気持ちになりやすい。混同注意:精神症状の存在と、その症状が直ちに入院を要する重症度や緊急性との区別。地域支援におけるクライエントの自己効力感の尊重。
- 5. 治療関係の構築において、作業療法士の自己開示は慎重に行うべきです。過度な自己開示は専門職としての倫理に反し、クライエント中心の視点から外れ、治療関係の境界を曖昧にする可能性があるため、開始当初の優先事項とはなりません。正しくは:クライエントとの信頼関係を築くために、まずは傾聴と共感に努め、必要に応じて適切な範囲で自己開示を検討する。選びやすい理由:親近感を持ってもらうために、自分のことを話すことが有効だと誤解しやすい。混同注意:ラポール形成のための治療的自己開示の適切な程度と、自己開示が治療関係に与える影響。
国試ポイント
精神科領域における作業療法の開始当初の対応として、クライエント中心の視点と、評価・関係構築の重要性が問われています。具体的な問題解決よりも、まずはクライエントの内的世界を理解することの優先順位を判断できるかが鍵となります。
混同注意
表面的な生活課題(部屋の乱れ、服薬不規則)や精神症状(幻聴)への直接的な対応と、作業療法の根幹であるクライエントの興味関心や価値観の把握との優先順位が混同しやすい。また、他職種(医師、看護師)の主な役割と作業療法士の役割の違いも理解しておく必要があります。
次に同じ論点が出たら
本人の興味関心が把握できた後には、就労に向けた具体的な作業遂行上の課題を評価するために、COPMや作業遂行に関連する質問紙、または観察を通して、就労に必要なスキルや社会生活能力、症状への対処方法についてさらに詳しく評価を進めることが考えられます。また、生活習慣の評価も並行して行うでしょう。
関連知識
人間作業モデル(MOHO)における意志サブシステム、カナダ作業遂行測定(COPM)、作業の興味チェックリスト、作業療法における治療関係論、クライエント中心の実践、目標設定の原則。