72歳の男性。糖尿病性腎症。独居。下肢筋力には低下を認めず、ADLは自立している。BMIは30。1.5 kmの距離の将棋教室にバスで週2回通っている。腎機能は糸球体濾過量40 mL/分/1.73 m2(CKD病期ステージ3b:中等度~高度低下)を認めたため入院となった。その他の併存疾患は認めていない。退院時の生活指導で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
72歳の患者はADL自立で下肢筋力低下もなく、将棋教室まで1.5kmという適度な距離を歩くことは、日常生活での身体活動量を無理なく増加させるための有効な手段です。BMIが30であることから肥満傾向にあり、糖尿病性腎症の進行抑制と肥満改善のためにも、このような継続可能な有酸素運動の導入は非常に適切です。その他の選択肢は、腎臓病の病態や高齢者の身体機能、適切な運動強度を考慮すると、不適切または過度な指導となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 糖尿病性腎症による慢性腎臓病(CKD)患者では、腎臓への負担を軽減し、腎機能悪化の進行を遅らせるために、タンパク質摂取量の制限が基本的な食事指導です。高タンパク食は腎臓の負担を増大させ、腎機能のさらなる低下を招く可能性があります。正しくは:低タンパク質の食事を推奨する。選びやすい理由:筋力維持や健康的な食生活を考えるとタンパク質は重要という一般的な認識から、正しいと考えてしまうかもしれません。混同注意:一般的な健康食や、腎臓病の中でも透析導入後の食事(透析によりタンパク質が失われるため、適切なタンパク質摂取が必要になる場合がある)と混同しやすいです。
- 2. 慢性腎臓病患者では、高血圧を合併していることも多く、高負荷の筋力トレーニングは血圧を急激に上昇させるリスクがあり、心臓や腎臓に過度な負担をかける可能性があります。また、72歳という年齢を考慮すると、段階的に運動強度を上げていくのが一般的です。正しくは:中等度以下の負荷で、無理のない範囲での筋力増強運動を指導する。選びやすい理由:筋力低下がないとはいえ、筋力維持・向上の重要性は一般的に知られているため、正しいと考えてしまうかもしれません。混同注意:健常者や、腎臓病が比較的軽度な段階での運動指導と混同しやすいです。また、運動そのものが良いという大まかな認識から選んでしまう可能性があります。
- 3. Borg指数17は「かなりきつい」と感じる運動強度であり、72歳の慢性腎臓病患者には非常に高負荷すぎます。一般的に慢性腎臓病患者や高齢者に対する運動指導では、Borg指数11~14程度の「楽である」から「ややきつい」と感じる中等度までの運動強度が推奨されます。正しくは:Borg指数11~14程度の有酸素運動を指導する。選びやすい理由:有酸素運動が健康に良いという認識から、正しいと考えてしまうかもしれません。混同注意:健常者の高強度トレーニングや、心肺機能向上を目指すアスリートのトレーニングと混同しやすいです。Borgスケールを正確に理解していないと、具体的な運動強度をイメージしにくいでしょう。
- 4. 正解。この患者はADL自立で下肢筋力低下がなく、BMIが30と肥満傾向にあります。1.5kmの歩行は、適度な有酸素運動として、心血管系への負担も少なく、腎臓病の進行抑制や肥満の改善に繋がる可能性があります。週2回の定期的な運動習慣になるため、継続性も期待できます。これは、日常生活の中で無理なく身体活動量を増やす、最も適切な介入と考えられます。選びやすい理由:患者の現在の状態(ADL自立、下肢筋力低下なし)と、目標とする健康増進(肥満改善、腎臓病進行抑制)に適した、無理のない範囲での身体活動量の増加を促す指導であるため、適切な選択肢と判断しやすいです。
- 5. この患者はADLが自立しており、下肢筋力にも低下を認めないため、現状では家事を自身で行うことに支障はありません。むしろ、家事を行うことは日常生活における身体活動の一部であり、活動量を維持・向上させる上で重要です。必要がないのにヘルパーの利用を勧めることは、活動量の低下や自己効力感の喪失につながる可能性があります。正しくは:現在の身体活動レベルを維持し、必要であれば家事の工夫や道具の活用を検討するよう助言する。選びやすい理由:高齢者で独居、病気を抱えているため、負担を軽減するという目的で検討されがちです。混同注意:身体機能が低下し、ADLに介助が必要な高齢者への介入と混同しやすいです。
国試ポイント
慢性腎臓病(CKD)患者、特に高齢者や糖尿病性腎症を合併する患者に対する、適切な食事療法、運動療法、および日常生活指導に関する知識が問われています。患者の現在の身体機能レベルや生活習慣を考慮し、現実的かつ効果的な介入を選択できるかが重要です。
混同注意
CKD患者の病期や併存疾患の有無、年齢に応じた運動強度や食事内容に関する知識が曖昧だと、適切な指導内容を判断するのが難しくなります。特に、一般的に推奨される健康的な生活習慣と、特定の疾患(CKD)に合わせた制限・調整とを混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の設問が出た場合、まず患者の年齢、基礎疾患とその重症度(CKDステージなど)、現在のADLや身体能力を正確に把握します。その上で、提示された生活指導案が「その患者にとって安全かつ効果的で、継続可能か」という視点で評価することが重要です。特に、運動強度の設定や食事制限の有無、介助の必要性について、疾患ガイドラインや高齢者特性を照らし合わせて判断する必要があります。
関連知識
慢性腎臓病の病期分類と病態生理、糖尿病性腎症の管理、高齢者に対する運動指導の原則(運動強度、頻度、種類)、Borgスケールなどの運動強度指標、慢性疾患患者の食事療法(特にタンパク質制限)、ADL評価と日常生活支援、肥満に対する介入策。