30歳の男性。統合失調症。3週前に工場で働き始めた。外来作業療法ではパソコンを使用した認知リハビリテーションを継続している。ある時、同じ作業療法に参加する2人の患者から同時に用事を頼まれ、混乱した様子で相談に来た。この患者の職場における行動で最もみられる可能性があるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
統合失調症の認知機能障害として、実行機能の低下がよく見られます。実行機能は目標設定、計画立案、順序付け、問題解決などの高次脳機能を含み、複数のタスクが同時に発生した場合に、その優先順位を判断し、適切に処理する能力に影響を与えます。この事例では、2人の患者から同時に頼みごとをされ、どうしてよいか分からず困っている状況は、まさに実行機能の中の優先順位付けの困難さを示唆しています。
選択肢ごとの解説
- 1. 周囲への挨拶が十分にできないことは、統合失調症の陰性症状による社会的交流の困難さや、対人関係スキルの問題である可能性はありますが、問題文の状況(同時に頼みごとをされ困る)とは直接的な関連が薄いです。正しくは:人間関係構築や維持に関する問題。選びやすい理由:統合失調症の陰性症状として、社会的引きこもりや交流の困難さが見られるため、一般的にあり得る症状として選びやすいかもしれません。混同注意:陰性症状、あるいは社会的スキル障害。
- 2. 身体の不調を訴えることが多いことは、統合失調症の症状自体というよりも、併存する身体疾患やストレス反応である可能性が高いです。問題文の状況とは直接結びつきません。正しくは:ストレス反応、あるいは身体合併症。選びやすい理由:精神疾患を持つ患者が身体症状を訴えることは少なくなく、心身症的な側面から関連があると考えてしまうかもしれません。混同注意:身体表現性障害や、精神的ストレスによる身体症状。
- 3. 体力不足で疲労しやすいことは、統合失調症の陰性症状による活動性の低下や、服薬の副作用などが原因である可能性はありますが、問題文で示された「同時に頼みごとをされ困る」という具体的な状況とは直接関連がありません。正しくは:陰性症状(活動性低下)や薬剤の副作用。選びやすい理由:精神疾患患者は一般的に活動量が低下しやすく、疲労感を訴えることが多いため、一般的な特徴として選びやすいかもしれません。混同注意:陰性症状、薬剤性副作用。
- 4. すぐに業務への興味を失ってしまうことは、統合失調症の陰性症状である意欲低下や無関心と関連しますが、複数のタスクへの対処困難さとは異なる問題です。問題文の状況は興味の有無ではなく、判断の困難さを示しています。正しくは:陰性症状(意欲低下、無関心)。選びやすい理由:統合失調症の陰性症状として、意欲の低下や興味の喪失がよく見られるため、この選択肢を選びやすいかもしれません。混同注意:陰性症状、実行機能障害との区別がつきにくい可能性(どちらも行動の停滞に繋がるため)。
- 5. 正解。問題文にある「同時に頼みごとをされ、どうしてよいか分からず困った様子」は、複数の情報やタスクを同時に処理し、どれから手をつけるべきか、何を優先すべきかを判断する能力(実行機能の一つである優先順位付け)が低下していることを示唆しており、統合失調症の認知機能障害でよく見られる特徴と合致するため、最も考えられる行動です。
国試ポイント
統合失調症における認知機能障害(特に実行機能障害)が、日常生活や職業生活に与える影響を理解することが重要です。実行機能は計画立案、優先順位付け、問題解決能力などを指し、社会適応能力に直結します。
混同注意
統合失調症の症状は多岐にわたるため、陰性症状(意欲低下など)や陽性症状(幻覚・妄想など)と認知機能障害を混同しないよう注意が必要です。特に、意欲低下と実行機能障害による困難さは、外見上似て見えることがありますが、機序が異なります。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合は、患者が「複数の情報を同時に処理する」「新しい状況に適応する」「計画を立てる」「物事の順序を決める」といった場面で困難さを示しているかどうかを判断の基準とします。
関連知識
統合失調症の認知機能障害は、BACS-Jなどの認知機能評価バッテリーで評価されます。認知リハビリテーションは、このような認知機能障害に対する有効な介入策の一つです。また、病識の欠如や対人関係の困難さも統合失調症でよく見られる問題ですが、これらも認知機能障害と関連することがあります。