29歳の男性。バイク転倒事故による右前頭葉脳挫傷および外傷性くも膜下出血。事故から2週後に意識清明となり、作業療法が開始された。運動麻痺と感覚障害はない。礼節やコミュニケーション能力は保たれているが、感情表出は少なく、ぼんやりしていることが多い。既知の物品操作方法は覚えているが、事故後の出来事に関する情報は忘れやすい。作業療法開始時間までに支度を整えることが難しく、しばしば時間に遅れる。この患者の状態を評価するために適切と考えられる評価法はどれか。2つ選べ。
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出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1・2番
解説
症例は右前頭葉脳挫傷および外傷性くも膜下出血の既往があり、感情表出の少なさ、ぼんやりしている、新しい出来事の健忘、時間管理の困難さが見られる。これらは前頭葉機能障害、特に遂行機能障害と記憶障害を示唆する。BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)は遂行機能の多角的評価に、RBMT(リバーミード行動記憶検査)は記憶、特に日常生活に関連する記憶の評価に適しているため、これらが適切である。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。症例には「感情表出は少なく、ぼんやりとしていることが多い」「作業療法開始時間までに支度を整えることが難しく、しばしば時間に遅れる」といった遂行機能障害を示唆する症状がある。BADSは遂行機能障害(計画、問題解決、行動制御など)を評価するための行動尺度であり、本症例に適切である。選びやすい理由:症例の症状と評価の目的が合致しているため、迷わず選べる。混同注意:他の認知機能評価尺度、特に記憶や注意の評価尺度と混同することがある。
- 2. 正解。症例には「既知の物品操作方法は覚えているが、事故後の出来事に関する情報は忘れやすい」という記銘力障害、特にエピソード記憶や展望的記憶の障害が疑われる。RBMTは日常的な行動に関連する記憶障害を評価する検査であり、本症例に適切である。選びやすい理由:症例の記憶障害の記述と評価の目的が合致しているため、迷わず選べる。混同注意:他の記憶検査(WMS-Rなど)や高次脳機能全般を評価する検査と混同することがある。
- 3. SLTA(標準失語症検査)は失語症の有無やその病型、重症度を評価する検査である。本症例は「礼節やコミュニケーション能力は保たれている」とあり、失語症の兆候は見られないため、SLTAは不適切である。正しくは:症例の状態からSLTAは不適切であり、遂行機能障害や記憶障害を評価するBADSやRBMTが適切である。選びやすい理由:失語症も高次脳機能障害の一つであるため、脳損傷後の高次脳機能障害の評価と誤解しやすい。混同注意:失語症以外の高次脳機能障害全般の評価と混同しやすい。
- 4. SPTA(標準高次視知覚検査)は視空間認知や視覚性失認を評価する検査である。本症例には運動麻痺や感覚障害はなく、視知覚障害を示唆する記述がないため、SPTAは不適切である。正しくは:症例の状態からSPTAは不適切であり、遂行機能障害や記憶障害を評価するBADSやRBMTが適切である。選びやすい理由:脳損傷後の高次脳機能障害の評価として選択肢に挙げられることが多いため、視知覚障害がなくても選びやすい。混同注意:視空間認知以外の高次脳機能障害の評価と混同しやすい。
- 5. VPTA(高次視覚機能検査)は視空間認知や視覚記憶、物体認識などの高次視覚機能を評価する検査である。本症例には運動麻痺や感覚障害はなく、高次視覚機能障害を示唆する記述がないため、VPTAは不適切である。正しくは:症例の状態からVPTAは不適切であり、遂行機能障害や記憶障害を評価するBADSやRBMTが適切である。選びやすい理由:脳損傷後の高次脳機能障害の評価として選択肢に挙げられることが多いため、視覚機能障害がなくても選びやすい。混同注意:視空間認知以外の高次脳機能障害の評価と混同しやすい。SPTAとVPTAは類似した検査であり、同時に混同されやすい。
国試ポイント
脳損傷後の高次脳機能障害、特に前頭葉機能(遂行機能)と記憶機能の評価法を区別して覚える。各評価尺度の対象となる機能障害とその特徴を理解することが重要である。
混同注意
BADSとRBMTは高次脳機能障害の行動評価に用いられるが、BADSが遂行機能全般を評価するのに対し、RBMTは記憶障害に特化している点が異なる。他の選択肢は失語症や視空間認知障害の評価であり、症例の主訴とは異なる。
次に同じ論点が出たら
同様の症例が出た場合、患者の主訴や行動観察から「どのような機能障害が疑われるか」を特定し、その機能障害に特化した評価法を選択する。特に遂行機能障害や記憶障害を示唆する記述に注目する。
関連知識
前頭葉機能障害には遂行機能障害(計画性、問題解決能力、行動制御の障害)、感情・行動の障害(脱抑制、感情鈍麻)、記憶障害(特に展望的記憶や作動記憶の障害)などが含まれる。これらの機能は相互に関連し、日常生活動作の自立度に大きく影響する。