58歳の男性。胸髄の脊髄腫瘍摘出術後、両下肢に明らかな運動麻痺、表在感覚障害はないが、深部感覚に重度鈍麻がみられた。開眼すると立位保持可能だが、閉眼するとふらついて倒れそうになる。また、歩行時にもふらつきがあり、踵打歩行が認められる。運動療法で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
患者は胸髄腫瘍摘出術後の深部感覚障害により、感覚性運動失調の典型的な症状(開眼では立位保持可能だが閉眼でふらつく(ロンベルグ徴候陽性)、踵打歩行)を呈しています。フレンケル体操は、視覚フィードバックを積極的に活用し、協調運動やバランス能力を段階的に向上させることで、深部感覚障害に起因する運動失調の改善に特化した運動療法です。他の選択肢は、それぞれ末梢循環障害、肩関節疾患、脊柱側弯症、腰痛といった異なる病態に対する運動療法であり、本症例には不適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 本症例の深部感覚障害による運動失調とは異なる、末梢動脈疾患の治療に用いられる運動であるため不適切です。正しくは:下肢の末梢動脈疾患患者の血行改善を目的とした運動です。選びやすい理由:血流改善が必要な疾患と混同する可能性があります。混同注意:間欠性跛行などの末梢循環障害の症状を持つ患者に対する他の運動療法と混同しやすいかもしれません。
- 2. 肩関節の機能改善を目的とした運動であり、下肢の深部感覚障害による運動失調の治療には適していません。正しくは:肩関節の疼痛や可動域制限のある患者に対し、重力と上肢の重みを利用した振り子運動です。選びやすい理由:上肢の運動機能改善を目的とした体操と混同する可能性があります。混同注意:肩関節疾患のリハビリテーションにおける他の運動(自動運動、他動運動、抵抗運動など)と混同しやすいかもしれません。
- 3. 正解。患者は胸髄腫瘍摘出術後の深部感覚障害により感覚性運動失調を呈しており、閉眼時のバランス不良や踵打歩行がその特徴です。フレンケル体操は、視覚による代償や協調性の訓練を通じて、このような感覚性運動失調の改善に最も効果的な運動療法として確立されています。
- 4. 脊柱の変形(特に側弯症)に対する矯正運動であり、深部感覚障害による運動失調の直接的な治療法ではありません。正しくは:脊柱側弯症など脊柱の変形に対し、四つん這いの姿勢を基本として脊柱の分節運動を促す運動です。選びやすい理由:脊柱の機能改善を目的とした運動であるため、脊髄疾患との関連で選択肢に迷う可能性がありますが、主目的が異なります。混同注意:脊柱疾患全般に対するリハビリテーションと混同しやすいかもしれませんが、クラープ体操は特に側弯症に特化しています。
- 5. 主に慢性的な腰痛の軽減、特に腰椎の安定化と屈曲性の改善を目的とした運動であり、深部感覚障害による運動失調に対する直接的な効果は期待できません。正しくは:慢性的な腰痛(特に椎間関節への負荷軽減)を抱える患者に対し、腹筋強化と股関節屈筋のストレッチ、腰椎屈曲を促す運動です。選びやすい理由:腰部に関連する症状を持つ患者に適用される運動として誤解しやすいかもしれません。混同注意:マッケンジー体操(腰椎伸展運動)など、腰痛に対する他の体操と混同しやすいかもしれません。
国試ポイント
運動療法における各種体操の適応疾患と目的を正確に理解しているか、特に感覚性運動失調の病態生理とそれに対する効果的な介入方法を把握しているかが問われています。臨床症状から患者の主要な障害(深部感覚障害による感覚性運動失調)を特定し、それに合致する運動療法を選択する能力が重要です。
混同注意
感覚性失調と小脳性失調: 閉眼時の平衡障害(ロンベルグ徴候陽性)は感覚性失調に特徴的であり、小脳性失調では開眼・閉眼に関わらず平衡障害が見られます。この鑑別が重要です。フレンケル体操と他のバランス訓練: バランス訓練全般ではなく、深部感覚障害をターゲットにした協調運動の訓練という点がフレンケル体操の核です。脊髄損傷の種類: 脊髄の部位(胸髄)や損傷のタイプ(深部感覚障害が主)によって症状や適応されるリハビリテーションが異なる点を混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出題された場合、患者の呈する運動失調が「深部感覚の鈍麻」によるものか(感覚性失調)、それとも「小脳障害」によるものか(小脳性失調)を鑑別できるかが最初の判断ポイントとなります。特に、ロンベルグ徴候の有無と閉眼時の症状悪化の記載があれば、感覚性失調を強く疑い、フレンケル体操の適応を検討します。また、運動麻痺の有無、表在感覚の有無も確認し、患者の主要な障害が何かを特定することが重要です。
関連知識
感覚性運動失調の評価: ロンベルグ徴候、継ぎ足歩行、指鼻試験、踵膝試験など。フレンケル体操の具体的な内容: 臥位、座位、立位、歩行の各段階における運動(例:臥位での踵・膝すり合わせ、座位での目標物への到達、立位での重心移動、歩行時のターゲットへの足運びなど)。視覚情報を活用し、精密さ、リズム、反復性を重視します。他の運動療法の適応: 各選択肢に挙げられた体操の具体的な適応疾患と目的を詳細に理解しておくことが重要です。脊髄損傷後のリハビリテーション: 損傷部位や症状に応じた多角的なアプローチ(筋力訓練、感覚訓練、バランス訓練、装具療法など)が必要です。