70歳の男性。陳旧性心筋梗塞。独居生活をしていたが、定期検査のため内科病棟に1週間入院したところ、入院前に比べて階段昇降ができなくなり、歩行距離も30 m程度まで低下した。この状態の説明で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
高齢者が入院することで、病気の治療そのものとは直接関係なく、活動量の低下や環境の変化、医療処置などによって身体機能が低下する現象をHAD(Hospitalization Associated Disability)と呼びます。本事例の男性は、定期検査のための1週間の入院という比較的短期かつ軽度な入院にもかかわらず、入院前と比較して階段昇降能力や歩行距離が顕著に低下しており、これはHADの典型的な状況に合致します。
選択肢ごとの解説
- 1. AEは『急性増悪』を意味し、慢性疾患の症状が一時的に急激に悪化する状態を指します。この男性の症状は心筋梗塞の急性増悪ではなく、入院によって身体活動能力が低下したものであるため、不適切です。正しくは:例えば、慢性呼吸器疾患患者が急に呼吸困難が増強した際などに用いられます。本事例の機能低下は、病気そのものの急激な悪化とは異なります。選びやすい理由:陳旧性心筋梗塞という心疾患の既往があるため、「悪化」という言葉から急性増悪と連想しやすいかもしれません。混同注意:『身体機能の悪化』全般と混同しやすいですが、AEは基礎疾患の病態そのものが悪化することを指します。
- 2. 正解。HADは『入院関連機能障害』を指し、高齢者が入院することで、基礎疾患の治療とは直接関係なく、身体活動の低下や環境変化、医療処置などによって、新たな機能障害が生じたり、既存の機能障害が悪化したりする現象です。本事例の男性は、定期検査のための比較的短期の入院中に階段昇降や歩行距離が低下しており、HADの典型的な状況に合致します。
- 3. ICU-AWは『集中治療室後天性筋力低下』を意味し、集中治療室(ICU)に入室中に発症する後天的な筋力低下や神経障害を指します。本事例の男性は内科病棟に1週間入院しており、ICUに入室している状況ではないため、不適切です。正しくは:ICU-AWは、人工呼吸器管理や長期臥床、鎮静などが原因でICU内で生じる重症な機能障害です。選びやすい理由:『入院中に生じる機能低下』という点でHADと似ていますが、ICU-AWはICU入室という特定の条件が必須です。混同注意:HADやPICS(集中治療後症候群)と混同しやすいですが、ICU-AWは発生場所がICUである点が異なります。
- 4. NYHA心機能分類は、心疾患による身体活動の制限度合いを評価するもので、Ⅰ度は身体活動に制限がなく、通常の身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛が生じない状態を指します。この男性は入院後に階段昇降や歩行距離が低下しており、活動制限が見られるため、Ⅰ度には当てはまりません。また、この分類は入院による一時的な機能低下を説明するものではありません。正しくは:この症状から判断すると、NYHA心機能分類では少なくともⅡ度以上(通常の身体活動で症状が出る)の可能性があり、これは心臓病自体の評価であり入院による機能低下を指すものではありません。選びやすい理由:陳旧性心筋梗塞という心疾患の既往があるため、心機能分類と結びつけてしまいやすいかもしれません。混同注意:心疾患の病態評価と、入院によって二次的に生じた身体機能低下の状況を混同しやすいです。
- 5. PICSは『集中治療後症候群』を意味し、ICUで集中治療を受けた患者が退院後に経験する身体的、精神的、認知的な機能障害の複合的な症候群を指します。本事例の男性は内科病棟に1週間入院しただけで、ICUでの治療を受けていないため、PICSには当てはまりません。正しくは:PICSは、集中治療後の長期にわたる回復期に見られる症状群です。選びやすい理由:ICU-AWと同様に、『入院後に生じる機能低下』という点でHADと似ていますが、PICSはICUでの治療が前提条件です。混同注意:HADやICU-AWと混同しやすいですが、PICSは発生場所(ICUかどうか)と発生するタイミング(入院中か退院後か)が異なります。
国試ポイント
高齢者の入院とそれに伴う身体機能低下に関する専門用語の正確な理解が問われています。特にHAD、ICU-AW、PICSといった類義語の定義と適用される状況の違いを区別できるかが重要です。
混同注意
HAD、ICU-AW、PICSは全て入院や治療に関連する機能低下を示す言葉ですが、発生する場所(一般病棟かICUか)、原因、重症度、およびタイミング(入院中か退院後か)が異なります。AEは病態の急性悪化であり、機能低下とは直接的でないため注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
この男性の状況をさらに深く評価する場合、入院中にどのような活動制限があったのか、具体的な離床状況、栄養状態、認知機能、そして退院後の生活環境やサポート体制などを確認する必要があります。また、心臓リハビリテーションの必要性も検討します。
関連知識
HAD (Hospitalization Associated Disability): 入院関連機能障害。高齢者が入院することで、基礎疾患の治療とは関係なく、身体活動の低下、筋力低下、認知機能の低下などにより、日常生活動作(ADL)能力が低下する現象。短期入院でも発生しうる。ICU-AW (Intensive Care Unit Acquired Weakness): 集中治療室後天性筋力低下。ICUに入室し、人工呼吸器管理や長期臥床などを受けた患者に生じる重度の筋力低下や神経障害。PICS (Post-Intensive Care Syndrome): 集中治療後症候群。ICUで集中治療を受けた患者が退院後に経験する、身体的(筋力低下、易疲労性)、精神的(不安、うつ、PTSD)、認知的(記憶障害、集中力低下)な機能障害の複合的な症候群。AE (Acute Exacerbation): 急性増悪。慢性疾患の症状が一時的に急激に悪化すること。NYHA心機能分類: 心臓病患者の身体活動制限の程度を評価する分類(I~IV度)。