62歳の男性。転倒し前額部を強打し、脊髄損傷と診断された。受傷後3日目のkey muscleのMMTは両側三角筋4、肘屈筋5、肘伸筋2、手関節背屈筋3、中指末節屈筋0、小指外転筋0、下肢筋0。両側乳頭部以下の触覚と痛覚は脱失。肛門の随意収縮と感覚は保たれていた。 この患者のASIA機能障害尺度[ASIA Impairment Scale〈AIS〉]はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この患者は乳頭部以下(T4以下)の触覚・痛覚が脱失しており、下肢筋は全てMMT0です。しかし、肛門の随意収縮と感覚が保たれていることから、仙髄S4-5の機能が残存していると判断できます。AISの分類基準では、損傷レベル以下に感覚機能は残存するが、運動機能は仙髄S4-5にわずかに残存する以外は失われている場合をAIS Bと定義します。このケースでは、乳頭部以下に感覚脱失があり、Key MuscleのMMTも下肢は全て0ですが、仙髄機能が保たれているため、AIS Bが適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. AIS Aは、仙髄S4-5領域を含む感覚運動機能が完全に失われている状態を指します。この患者は肛門の随意収縮と感覚が保たれており、仙髄機能が残存しているため、Aには該当しません。正しくは:AIS Aに該当するには、完全な感覚・運動麻痺で、仙髄S4-5の機能も完全に失われている必要があります。選びやすい理由:下肢筋が全て0で乳頭部以下の感覚が脱失しているため、重度の麻痺と判断しAを選んでしまう可能性があります。混同注意:AIS AとBの判断基準で、仙髄機能の有無を混同しやすいです。
- 2. 正解。AIS Bは、損傷レベル以下で感覚機能はあるものの、運動機能は仙髄S4-5領域にわずかな残存がある以外は完全に失われている状態を指します。この患者は乳頭部以下の触覚・痛覚が脱失していますが、肛門の随意収縮(運動機能)と感覚(S4-5の感覚機能)が保たれており、これが損傷レベル以下の感覚残存に該当します。一方、損傷レベル以下の運動機能は残存しておらず、Key Muscleは損傷レベル以下で全てMMT0であり、仙髄S4-5以外の運動機能は失われています。したがって、AIS Bに最も適切です。正しくは:この選択肢は正しいです。混同注意:AIS BとCの区別で、損傷レベル以下の運動機能の残存の程度(MMT3以上が半数以上あるか)を混同しやすいです。
- 3. AIS Cは、損傷レベル以下の運動機能の一部が残存している状態で、Key Muscleの半数以上がMMT3未満(ただしMMT0ではない)の場合に該当します。この患者は下肢筋が全てMMT0であり、損傷レベル以下の運動機能は仙髄S4-5以外に残存していないため、Cには該当しません。正しくは:AIS Cに該当するには、損傷レベル以下の運動機能で、MMT3以上のKey Muscleが半数未満である必要があります。選びやすい理由:仙髄機能が残存していることから、何らかの部分的な残存があると判断しCを選んでしまう可能性があります。混同注意:AIS BとCの判断基準で、運動機能の残存の程度や、仙髄機能の残存を損傷レベル以下の運動機能残存と誤解しやすいです。
- 4. AIS Dは、損傷レベル以下の運動機能が残存しており、Key Muscleの半数以上がMMT3以上である場合に該当します。この患者は下肢筋が全てMMT0であり、この基準を満たさないため、Dには該当しません。正しくは:AIS Dに該当するには、損傷レベル以下の運動機能で、MMT3以上のKey Muscleが半数以上である必要があります。選びやすい理由:運動機能の残存がある程度ある状態だと勘違いし、Dを選んでしまう可能性があります。混同注意:AIS CとDの判断基準で、MMT3以上のKey Muscleの割合を混同しやすいです。
- 5. AIS Eは、感覚機能も運動機能も完全に正常である場合に該当します。この患者は重度の感覚・運動麻痺があるため、Eには該当しません。正しくは:AIS Eは、脊髄損傷後の機能が完全に回復し、損傷がない状態を指します。選びやすい理由:極めて軽度な損傷や、回復期で機能がほとんど回復した場合と誤解する可能性があります。混同注意:正常な機能状態と脊髄損傷による麻痺の状態を混同することはありませんが、完全回復をEとする定義を正確に覚えていない場合があります。
国試ポイント
この問題は、脊髄損傷の重症度を分類するASIA機能障害尺度(AIS)の各段階(A, B, C, D, E)の定義を正確に理解しているかを問うものです。特に、仙髄S4-5の感覚・運動機能の有無が、完全麻痺(A)と不全麻痺(B以降)を区別する重要なポイントであり、また損傷レベル以下の運動機能の残存度合い(MMT3以上のKey Muscleの割合)がB, C, Dを区別する鍵となります。
混同注意
AIS AとBの区別(仙髄S4-5機能の有無)、AIS BとCの区別(損傷レベル以下で仙髄S4-5以外の運動機能が全くないか、ある程度残存しているか)が特に混同されやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、まず『仙髄S4-5の機能(肛門の随意収縮と感覚)』が保たれているかを確認し、完全麻痺(A)を除外できるかを判断します。次に、損傷レベル以下の感覚機能の有無、そして運動機能の残存度合い(Key MuscleのMMT3以上の割合)を詳細に検討し、B, C, Dのいずれに該当するかを正確に分類する必要があります。
関連知識
ASIA機能障害尺度(AIS)の他に、脊髄損傷の神経学的レベルの決定方法、Key Muscleとデルマトームの対応、完全麻痺と不全麻痺の概念、および脊髄ショックの定義と期間について理解しておく必要があります。