45歳の男性。半年前から左上肢遠位部の脱力、3か月前から左上肢の筋萎縮と右上肢の脱力、さらに最近歩行障害と構音障害を認めるようになり、神経内科で筋萎縮性側索硬化症と診断された。現時点で認められる可能性が高いのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第53回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が障害される疾患です。設問文中の『左上肢遠位部の脱力』『左上肢の筋萎縮』は下位運動ニューロン障害を示唆し、『右上肢の脱力』や『歩行障害、構音障害』は上位運動ニューロン障害(錐体路障害)を示唆しています。Hoffmann反射は上位運動ニューロン障害の兆候である病的反射の一つであり、ALSの診断時に認められる可能性が高いです。他の選択肢は、ALSでは障害されにくい機能や、疾患の進行後期にみられる症状であるため、現時点での可能性は低いです。
選択肢ごとの解説
- 1. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の初期から中期では、褥瘡は通常みられません。褥瘡は長期臥床や自己体位変換能力の低下が著明になってから発生する合併症であり、この時点ではまだ一般的ではありません。正しくは:ALSの進行後期や重度の不動状態になった場合に可能性が高まる。選びやすい理由:ALSが進行すると活動性が低下し褥瘡のリスクは高まるが、診断直後の現時点では可能性は低い。混同注意:進行期ALSと診断早期のALSの合併症の違い。
- 2. ALSは運動ニューロン病であり、感覚神経は通常障害されません。したがって、振動覚を含む感覚障害はALSの主要な症状ではありません。正しくは:ALSでは原則として感覚障害は認められない。選びやすい理由:一部の神経疾患では感覚障害が顕著だが、ALSの病態とは異なる。混同注意:上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの障害による症状と、感覚神経障害による症状の混同。
- 3. ALSでは脳幹の運動核のうち、動眼神経核、滑車神経核、外転神経核は比較的障害されにくいとされています。そのため、眼球運動障害はALSの末期まで出現しないか、全く出現しないことが多い特徴があります。正しくは:ALSでは眼球運動は保たれることが多い。選びやすい理由:脳幹の運動核の一部は障害されるが、眼球運動関連の核は障害されにくいという特異性を知らなければ誤解する可能性がある。混同注意:ALSで障害されやすい脳幹の部位と、されにくい部位の区別。
- 4. ALSでは、排尿や排便を制御する自律神経系や脊髄の特定の部位は比較的障害されにくいとされています。そのため、膀胱直腸障害もALSの主要な症状とはならず、多くの場合、末期まで保たれます。正しくは:ALSでは膀胱直腸機能は比較的保たれる。選びやすい理由:他の脊髄疾患では膀胱直腸障害が一般的であるため、ALSでも生じると誤解しやすい。混同注意:運動ニューロン病と他の神経変性疾患や脊髄疾患の症状の違い。
- 5. 正解。Hoffmann反射は錐体路障害(上位運動ニューロン障害)を示唆する病的反射の一つです。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が障害される疾患であり、この症例の『右上肢の脱力』は上位運動ニューロン障害を示唆しているため、Hoffmann反射陽性は高い可能性で認められます。特に、左上肢に下位運動ニューロン障害症状(筋萎縮、脱力)が先行し、その後右上肢に脱力が見られたという経過は、両方のニューロン障害が混在するALSの典型的症状パターンです。
国試ポイント
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の主要な病態生理(上位・下位運動ニューロン障害の混在)とその臨床症状、特に感覚障害・眼球運動障害・膀胱直腸障害といった、ALSでは比較的保たれる機能に関する知識が問われています。病的反射の意義も理解しておく必要があります。
混同注意
上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害の症状を区別すること。また、ALSで障害されやすい部位とされにくい部位(眼球運動、膀胱直腸機能、感覚機能)を正確に理解すること。
次に同じ論点が出たら
この患者に対して、リハビリテーション介入を行う上で、具体的にどのような評価項目を優先し、どのような点に注意してプログラムを立案すべきか。
関連知識
バビンスキー反射、チャドック反射などの他の病的反射。ALSの診断基準(El Escorial基準など)。他の運動ニューロン疾患(進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症など)との鑑別。