75歳の男性。糖尿病性腎症のため維持血液透析中。この患者の運動耐容能を評価する検査はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
心肺運動負荷試験(CPX)は、被験者に段階的な運動負荷をかけながら、心電図、血圧、心拍数、そして呼気ガス分析を通じて、酸素摂取量(VO2)や二酸化炭素排出量(VCO2)などを詳細に測定します。これにより、最大酸素摂取量(VO2max)や嫌気性閾値(AT)といった指標が得られ、心臓、肺、末梢循環、骨格筋の総合的な機能から「運動耐容能」を客観的かつ定量的に評価することができます。特に、糖尿病性腎症や維持血液透析患者のような心血管系リスクが高い患者の運動処方や運動制限を決定する上で非常に重要な検査です。
選択肢ごとの解説
- 1. CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)は、動脈の硬さ、すなわち動脈硬化の進展度を評価する指標であり、血管の伸展性や弾力性を示します。これは運動耐容能を直接的に測定するものではありません。正しくは:血管の硬さや動脈硬化の評価には適切ですが、運動耐容能の評価としては不適切です。選びやすい理由:高齢者や糖尿病患者に合併しやすい動脈硬化の検査であるため、心血管系の包括的な評価として関連があるように見えるかもしれませんが、問われているのは「運動耐容能」です。混同注意:心血管系の指標であるため、心機能評価の一部と混同する可能性がありますが、運動負荷時の全身反応とは異なります。
- 2. HOMA-R(Homeostasis Model Assessment - Insulin Resistance)は、空腹時の血糖値とインスリン値からインスリン抵抗性の度合いを示す指標です。これは糖尿病の病態把握に用いられますが、身体の運動能力の限界を直接的に評価するものではありません。正しくは:インスリン抵抗性の評価には適切ですが、運動耐容能の評価としては不適切です。選びやすい理由:設問の患者は糖尿病性腎症であるため、糖尿病関連の重要な指標として選択肢に入っていると推測でき、正答と勘違いしやすいかもしれません。混同注意:血糖コントロールや糖尿病の重症度評価と運動耐容能の評価を混同する可能性があります。
- 3. HRV(Heart Rate Variability)は心拍リズムの細かな変動を解析し、自律神経機能(交感神経と副交感神経のバランス)の状態を評価するものです。これは心血管疾患のリスク評価や予後予測に用いられますが、運動能力の限界である運動耐容能を直接的に示すものではありません。正しくは:自律神経機能の評価には適切ですが、運動耐容能の評価としては不適切です。選びやすい理由:心臓に関連する指標であるため、心機能や全身状態の評価として重要に見えますが、「運動耐容能」とは直接的な関係が薄いです。混同注意:自律神経機能と心肺機能の関連性はありますが、運動中の身体能力の限界を評価するものではありません。
- 4. ABI(Ankle Brachial Index)は、上肢と下肢の血圧比から下肢の動脈硬化、特に閉塞性動脈硬化症(PAD)の有無や重症度を評価する指標です。これは末梢血管の血流状態を示すものであり、運動耐容能を直接的に測定するものではありません。正しくは:閉塞性動脈硬化症の評価には適切ですが、運動耐容能の評価としては不適切です。選びやすい理由:糖尿病性腎症患者は末梢動脈疾患の合併率が高いため、関連性の高い検査に見えますが、これも「運動耐容能」の指標ではありません。混同注意:血管系の問題が運動能力に影響を及ぼすことは確かですが、ABIは血管病変の有無や程度を評価するものであり、運動の限界そのものを測るものではありません。
- 5. 正解。心肺運動負荷試験(CPX)は、運動中のガス交換データ(酸素摂取量、二酸化炭素排出量など)を測定することで、心臓、肺、循環器、骨格筋といった全身の運動能力を統合的に評価し、最大酸素摂取量(VO2max)や嫌気性閾値(AT)などから「運動耐容能」を客観的かつ定量的に測定する最も適切な検査です。
国試ポイント
この問題は、高齢で慢性疾患(糖尿病性腎症)と治療(維持血液透析)を抱える患者に対して、「運動耐容能」という特定の生理学的指標を評価するための適切な検査法を選択できるかという実践的な知識を問うています。心肺運動負荷試験(CPX)が運動耐容能の直接的かつ総合的な評価法であることを理解しているかが鍵となります。他の選択肢は、動脈硬化、インスリン抵抗性、自律神経機能など、患者の病態に関連するものの、運動耐容能を直接評価するものではないことを判別する能力が求められます。
混同注意
運動耐容能と混同しやすい概念として、安静時の心機能(心エコー、BNP)、肺機能(肺機能検査)、筋力(MMT、握力)、バランス能力(TUG、FRT)、あるいはADL能力などが挙げられます。これらは運動能力の一部を構成しますが、運動負荷をかけた際の全身的な生理的反応に基づく耐容能とは異なります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出題された場合、まず問題文で「何を評価したいのか」という目的を明確に把握することが重要です(例: 運動耐容能、動脈硬化、血糖コントロール、自律神経機能など)。次に、各選択肢の検査法が「具体的に何を測定し、何を示しているのか」という検査の目的と意義を正確に理解できているかを確認します。これにより、評価目的に対して最適な検査を選択できるようになります。
関連知識
糖尿病性腎症や維持血液透析患者は、心血管疾患の合併リスクが高く、貧血、骨・ミネラル代謝異常、サルコペニアなどにより運動耐容能が低下しやすい傾向にあります。そのため、運動処方を行う前には、CPXなどによる運動耐容能の正確な評価に加え、虚血性心疾患のスクリーニング、透析シャントの保護、血糖コントロールへの配慮など、多角的な注意が必要です。CPXは、運動療法の効果判定やリスク層別化にも活用されます。