28歳の男性。2日前に交通事故で受傷し、脊髄損傷と診断されて入院加療が行われている。Key muscleのMMTは両側三角筋5、肘屈筋5、肘伸筋2、手関節背屈筋5、中指末節屈筋0、小指外転筋0、下肢筋は全て0であった。感覚については両側乳頭部まで触覚、痛覚が保たれていたが、それ以下の体幹部、下肢は脱失していた。直腸診では肛門の随意収縮、肛門深部圧、周囲の感覚は消失していた。 この患者のAISはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者は、両側の乳頭部(T4レベル)まで感覚が保たれていますが、それ以下の体幹部および下肢は感覚が脱失しています。また、肘伸筋(C7)はMMT2、中指末節屈筋(C8)と小指外転筋(T1)はMMT0、下肢筋は全てMMT0です。最も重要な点は、直腸診で肛門の随意収縮、肛門深部圧、周囲の感覚が全て消失していることです。これは仙髄S4-5領域の機能が完全に失われていることを意味します。ASIA機能障害尺度(AIS)の定義において、仙髄S4-5領域の感覚および運動機能が完全に消失している場合、その損傷は「完全損傷」とされ、AIS Aに分類されます。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。この患者は、仙髄S4-5領域を含む全ての運動および感覚機能が完全に消失しているため、AIS Aに分類されます。直腸診で肛門の随意収縮、肛門深部圧、周囲の感覚が消失していることが、S4-5領域の完全損傷を示しています。
- 2. AIS Bは、不完全損傷の一つで、損傷レベル以下の感覚は残存しているものの、運動機能は損傷レベル以下で完全に消失している状態を指します。この患者の場合、仙髄S4-5の感覚も消失しているため、Bには該当しません。正しくは:損傷レベル以下に感覚が残存し、S4-5領域に感覚も含む機能が一部でも残存していればBの可能性があるが、本症例では完全に消失している。選びやすい理由:T4以下で感覚が脱失しているように見えるが、S4-5領域の感覚も消失している点がAIS Bとの決定的な違い。混同注意:感覚が一部残存している不全損傷との違い。
- 3. AIS Cは不完全損傷で、損傷レベル以下の運動機能が残存しているが、その大部分(キーマッスル50%以上)のMMTが3未満である場合を指します。この患者は、損傷レベル以下(T4以下)の運動機能が完全に0であるため、Cには該当しません。正しくは:損傷レベル以下に運動機能が残存し、キーマッスルのMMTが3未満のものが過半数であればCに該当する。選びやすい理由:不完全損傷の選択肢であり、可能性として考えるかもしれない。混同注意:運動機能の残存がある不全損傷との違い。
- 4. AIS Dも不完全損傷で、損傷レベル以下の運動機能が残存しており、その大部分(キーマッスル50%以上)のMMTが3以上である場合を指します。この患者は、損傷レベル以下(T4以下)の運動機能が完全に0であるため、Dには該当しません。正しくは:損傷レベル以下に運動機能が残存し、キーマッスルのMMTが3以上のものが過半数であればDに該当する。選びやすい理由:不完全損傷の選択肢であり、可能性として考えるかもしれない。混同注意:運動機能の残存がある不全損傷との違い。
- 5. AIS Eは、脊髄損傷がない状態、または以前に損傷があったものの運動・感覚機能が正常に回復した状態を指します。この患者は脊髄損傷の診断を受けており、運動・感覚機能に明らかな障害があるため、Eには該当しません。正しくは:脊髄損傷がないか、完全に回復して運動・感覚機能が正常であればEに該当する。選びやすい理由:脊髄損傷がない状態を示すため、脊髄損傷患者には基本的に当てはまらない。混同注意:健常者、あるいは完全に回復した状態。
国試ポイント
ASIA機能障害尺度(AIS)の分類基準、特に完全損傷(AIS A)と不完全損傷(AIS B, C, D)の区別、そして仙髄S4-5領域の機能評価(直腸診)が重要である点が問われている。損傷レベル以下の感覚および運動機能の有無、特にS4-5領域の機能がキーポイントとなる。
混同注意
AIS AとAIS Bの区別が最も間違いやすいポイントです。AIS Bは、損傷レベル以下に感覚が残存するものの、運動機能は仙髄S4-5を含めて完全に消失している状態を指します。本症例ではS4-5の感覚も消失しているためAIS Aとなります。S4-5の感覚の有無が判断の分かれ目となります。
次に同じ論点が出たら
次に類似の問題が出た場合、まず仙髄S4-5の機能(特に直腸診所見)を確認し、感覚と運動のいずれかでも残存していれば不完全損傷(B, C, D)の可能性を検討します。完全に消失していればAIS Aです。その後、損傷レベル以下の感覚の有無でAIS AとBを区別し、運動機能の残存とMMTの程度でAIS CとDを区別します。
関連知識
ASIA機能障害尺度(AIS)は、国際的な脊髄損傷の神経学的分類基準(ISNCSCI)の一部です。ISNCSCIでは、各髄節のキーマッスルと皮膚分節の感覚を評価し、最終的に神経学的損傷レベル、感覚損傷レベル、運動損傷レベル、そしてAISを決定します。AISはAからEまでの5段階で、Aが完全損傷、Eが正常です。特に、仙髄S4-5領域の機能評価(直腸診:肛門の随意収縮、肛門深部圧、周囲の感覚)は、完全損傷か不完全損傷かを判断する上で極めて重要です。