脊髄損傷患者のトランスファーボードを用いた車椅子からベッドへの移乗動作を図に示す。この動作を獲得目標とする機能残存レベルはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
トランスファーボードを用いた移乗動作を自立して行うためには、手関節の背屈機能が必須です。手関節の背屈が可能になることで、腱固定作用(tenodesis grip)を利用したプッシュアップや、ボード上での体幹の安定を保ちながらの移動が可能になります。この手関節の背屈機能は、脊髄損傷レベルC6で橈側手根伸筋が残存することで獲得されるため、C6がこの動作の獲得目標レベルとなります。
選択肢ごとの解説
- 1. C5レベルの脊髄損傷では、上腕二頭筋や三角筋の機能は残存するものの、手関節や手指の機能が著しく制限されるため、トランスファーボードを用いた移乗に必要な体幹の安定性やプッシュアップ能力、ボードの操作などが困難です。正しくは:C5レベルでは、介助によるボード移乗や、シーティング時の安定性確保が主な目標となります。選びやすい理由:上肢の主要な筋肉の一部が機能するため、ある程度の移乗動作が可能だと誤解しやすいかもしれません。混同注意:C5レベルでは、肘の屈曲や肩の外転は可能ですが、手関節の背屈や屈曲、手指の機能は失われている点がC6との大きな違いです。
- 2. 正解。C6レベルの脊髄損傷では、橈側手根伸筋の機能が残存するため、手関節を背屈させることができます。これにより、腱固定作用(tenodesis grip)を利用した把握動作が可能となり、手のひらを開いた状態で体重を支えたり、トランスファーボードを操作したり、プッシュアップを行う能力が向上します。これらの機能は、トランスファーボードを用いた移乗動作を自立させる上で非常に重要です。正しくは:正しい選択肢です。選びやすい理由:正しい選択肢です。混同注意:C5とC6の機能の違い、特に手関節の背屈機能の有無が、自立的な移乗能力を大きく左右する点を理解しているかが問われます。
- 3. C7レベルの脊髄損傷では、上肢のほとんどの筋肉が機能し、特に上腕三頭筋が働くため、C6レベルよりもさらにプッシュアップ能力や体幹の安定性が高まります。トランスファーボードを用いた移乗はC6レベルで可能になるため、C7レベルはボードを使わない自立移乗や、より複雑な移乗(例えば床からの移乗など)の目標となることが多いです。正しくは:C7レベルでは、トランスファーボードなしでの自立移乗が目標となることが一般的です。選びやすい理由:機能レベルが高い方がより確実に移乗できるため、C7を選択したくなるかもしれませんが、問題は「トランスファーボードを用いた移乗動作の獲得目標」なので、最低限必要なレベルを問うています。混同注意:C6とC7の機能の違い、特に上腕三頭筋の機能の有無が、ボードなし移乗の可否を分ける点を理解しているかが重要です。
- 4. C8レベルの脊髄損傷では、手指の屈筋群の一部や内在筋の機能が残存するため、より細かな手の操作や握力が向上します。これはC6、C7レベルよりも高い機能レベルであり、トランスファーボードを用いた移乗はC6レベルで十分に可能であるため、C8レベルを目標とする必要はありません。正しくは:C8レベルでは、ほぼ全てのADLを自立できる能力が期待されます。選びやすい理由:より高い機能レベルなので、より安全に確実に移乗できるのは確かですが、問題は「獲得目標とする」最低限のレベルを問うています。混同注意:脊髄損傷のレベルと残存機能、特に上肢の主要な筋肉と手関節・手指の機能との関連性を正確に理解しているかが重要です。
- 5. T1レベルの脊髄損傷では、上肢機能は完全に温存され、体幹の安定性もC6レベルよりも大幅に向上します。このレベルでは、トランスファーボードなしでの自立移乗はもちろん、ほとんどのADLを問題なく行うことが可能です。そのため、トランスファーボードを用いた移乗の「獲得目標レベル」としては過剰です。正しくは:T1レベルでは、上肢は完全に温存され、胸郭や上部体幹の安定性も良好です。選びやすい理由:機能が高いほど良いという考えから選んでしまうかもしれませんが、設問は「目標とする機能残存レベル」であり、最低限の機能で達成できるレベルを問うています。混同注意:脊髄損傷の各レベルで残存する主要な筋肉とその機能、特に移乗動作に必要な最小限の機能について理解しているかが問われます。
国試ポイント
この問題は、脊髄損傷の機能残存レベルと、それに伴うADL(特に移乗動作)の自立度との関連性を理解しているかを問うものです。C5、C6、C7といった頸髄損傷レベルにおける上肢のキーマッスルの残存と、それが可能にする具体的な動作(特に手関節の背屈機能と腱固定作用)が重要です。
混同注意
C5とC6の機能の違い(特に手関節の背屈の有無)、C6とC7の機能の違い(特に上腕三頭筋の有無によるボードなし移乗の可否)が混同されやすい点です。トランスファーボードを使用する移乗はC6、ボードなしの移乗はC7が目安となります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出題された場合、脊髄損傷の機能残存レベルと、特定のADL動作(更衣、食事、排泄など)の自立度を組み合わせた問題、または特定の装具や補助具(例:把持装具、カフ、リーチングエイドなど)の使用がどのレベルから可能になるか、といった応用的な知識が問われる可能性があります。
関連知識
国際的な脊髄損傷機能分類(ASIA分類)や、各脊髄レベルにおけるキーマッスル、およびその筋肉が残存することで可能となる主要な動作(例:C5:肘屈曲、C6:手関節背屈、C7:肘伸展、C8:手指屈曲、T1:手指外転など)について正確に理解しておく必要があります。また、腱固定作用(tenodesis grip)のメカニズムと、それが脊髄損傷患者のADLに与える影響も重要です。