47歳の女性。多発性硬化症。30歳で発症し、寛解と増悪を繰り返した後、完全寛解していた。1週前に視力低下と小脳症状が出現し、入院となった。視神経と右小脳半球に脱髄を認める。過回内テストで図のような動きが観察された。この患者にみられる所見はどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
小脳障害によって生じる測定異常(dysmetria)は、目的とする目標までの距離や運動の範囲を正確に調節できない状態を指します。具体的には、指鼻試験などで目標に届かない(過小測定)か、目標を通り過ぎてしまう(過大測定)といった形で現れます。問題文中の「過回内テストで図のような動きが観察された」という記述が、指鼻試験で目標を通り過ぎるような過大測定を示唆しているため、測定異常が最も適切な所見となります。多発性硬化症は、脳や脊髄の多発性の脱髄を特徴とし、小脳症状もよく見られます。
選択肢ごとの解説
- 1. 小脳障害によって意図的な運動時に振戦(企図振戦)が出現することはありますが、過回内テストの「目標を通り過ぎる動き」は、より直接的に測定異常を示唆します。過回内テストで直接評価されるのは、目標への到達精度です。正しくは:振戦は「目標に向かっていく過程で規則的または不規則に震えが生じること」を指します。選びやすい理由:小脳症状として振戦は非常によく見られるため、選択肢として魅力的です。特に企図振戦は多発性硬化症でもよく見られます。混同注意:測定異常と混同しやすいですが、測定異常は距離や範囲の誤りであり、振戦は不随意な振動運動です。
- 2. 運動分解も小脳症状の一つですが、これは複数の関節運動を協調して行うべき動作が、一つ一つの単純な運動に分解されて行われる状態を指します。過回内テストで目標を通り過ぎる動きは、この状態とは異なります。正しくは:運動分解は「円滑な多関節運動が、個々の関節運動の集合のようにぎこちなくなること」を指します。選びやすい理由:小脳症状として有名であり、運動協調障害の一部として認識されやすいです。混同注意:他の小脳症状(測定異常、共同運動失調など)と混同しやすいですが、それぞれ定義が異なります。
- 3. 正解。測定異常は、目標までの距離や運動の範囲を正確に調節できないために、目標に届かなかったり(過小測定)、目標を通り過ぎてしまったり(過大測定)する小脳性の運動失調の一つです。過回内テストで「目標を通り過ぎるような動き」が観察されたという記述は、まさに過大測定としての測定異常を指しています。正しくは:すでに正しい記述です。選びやすい理由:選択肢の中で最も直接的に、与えられた情報と合致する症状です。混同注意:他の小脳症状、特に振戦や共同運動失調と混同されやすいですが、測定異常は距離や範囲の調節障害に特化しています。
- 4. 協働収縮異常(共同運動失調)は、複数の筋肉群が共同で動作を行う際に、適切なタイミングと強度で収縮・弛緩できないために、運動が円滑に行えない状態を指します。これは「目標を通り過ぎる」という単一の現象よりも広範な運動障害を示します。具体的には、姿勢保持の困難さや、歩行時のバランス障害などで見られます。正しくは:協働収縮異常は「複数の関節や筋が関わる運動で、それらが適切に協調しないため、ぎこちなく不正確な動きになること」を指します。選びやすい理由:小脳症状として運動失調が挙げられるため、この選択肢も関連が深く見えます。混同注意:運動分解や測定異常と混同しやすいですが、協働収縮異常は動作全体の円滑さに問題がある状態です。
- 5. 反復拮抗運動不能は、手足の回内・回外運動や、指の屈伸運動など、拮抗する運動を素早く繰り返すことが困難になる状態を指します。これも小脳症状ですが、「目標を通り過ぎる動き」という記述とは直接的に一致しません。正しくは:反復拮抗運動不能は「手の回内・回外運動など、拮抗する運動を素早く連続して行うことが困難になること」を指します。選びやすい理由:小脳症状として非常に特徴的な所見の一つであり、多発性硬化症患者にも見られることがあります。混同注意:測定異常とは評価する運動の側面が異なります。測定異常は精度、反復拮抗運動不能は素早さとリズムです。
国試ポイント
この問題は、小脳症状の典型的な所見とその具体的な表現を結びつける能力を問うものです。特に、特定の運動テスト(指鼻試験、踵膝試験など)で観察される異常な動きが、どの医学用語に該当するかを正確に理解しているかが重要です。複数の選択肢が小脳症状であるため、それぞれの症状の定義を厳密に把握している必要があります。
混同注意
小脳症状は多岐にわたり、それぞれが似たような運動障害を引き起こすため混同しやすいです。特に、振戦(企図振戦)、運動分解、協働運動失調、反復拮抗運動不能、測定異常は区別がつきにくいことがあります。各症状の定義と、それを評価するための具体的なテストでの所見をしっかりと結びつけて覚えることが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の論点が出題された場合、小脳症状を評価する様々なテスト(指鼻試験、踵膝試験、継ぎ足歩行、Romberg試験など)と、それぞれのテストで観察される異常がどの症状(例:指鼻試験での過大測定→測定異常、回内・回外運動の拙劣さ→反復拮抗運動不能)を示すかを問われる可能性が高いです。また、問題文に具体的なテストの様子を図で示す形式も考えられます。
関連知識
多発性硬化症の病態生理(脱髄)、小脳の機能解剖、小脳性運動失調の各症状(測定異常、運動分解、反復拮抗運動不能、振戦、共同運動失調、構音障害、眼振など)の定義と評価方法。