32歳の男性。筋強直性ジストロフィー。手指を強く握ると筋強直のために開くのに時間がかかる。側頭部と頰部の筋萎縮と閉口障害を認める。筋力はMMTで頸部2、肩関節周囲2、肘関節周囲2、手指3、股関節周囲2、膝関節周囲2、足関節周囲1で、立位になればかろうじて短距離歩行可能である。労作時に動悸や呼吸苦の自覚はなく、SpO2の低下を認めない。正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第56回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
筋強直性ジストロフィーでは、咀嚼筋の筋力低下や筋強直により咀嚼が困難になることがあります。そのため、咀嚼回数を減らせるような柔らかい形態の食事は、摂食を容易にし、誤嚥防止にも繋がります。
選択肢ごとの解説
- 1. 筋強直性ジストロフィー患者の筋強直に対し、強い抵抗をかけてROM運動を行うと、筋肉や関節に過度な負担をかけ、損傷のリスクを高める可能性があります。また、痛みや不快感を引き起こし、運動の継続が困難になることがあります。正しくは:ROM運動は、筋強直を悪化させないよう、ゆっくりと穏やかに、また筋温を上げてから行うなど、慎重なアプローチが求められます。急激な抵抗運動は避けるべきです。選びやすい理由:関節の可動域を維持・拡大しようとするのは理学療法として一般的であるため、強く行うことが効果的だと誤解しやすい。混同注意:筋強直を伴わない通常の関節可動域制限に対するROM運動と混同しやすい。
- 2. 正解。筋強直性ジストロフィーでは、咀嚼筋の筋力低下や筋強直により、食べ物を噛み砕くことが困難になることがあります。咀嚼回数を減らせるような柔らかい、または刻まれた食事形態は、誤嚥のリスクを軽減し、効率的な栄養摂取を助けます。選びやすい理由:症状に直接対応した具体的な生活指導であり、患者のQOL向上に直結する選択肢だから。混同注意:他の疾患による摂食嚥下障害への対応と基本的な考え方は共通しているため、選びやすい。
- 3. 筋強直性ジストロフィーにおいて、過度な負荷は避けるべきですが、等尺性収縮は関節に負担をかけずに筋力維持や向上を図る有効な手段となり得ます。患者の状態に合わせて、軽度から中程度の負荷で安全に実施することが推奨されます。正しくは:等尺性収縮による筋力増強運動は、患者の状態を考慮し、適切な強度と方法で実施すれば有効な場合があります。選びやすい理由:ジストロフィーという病名から、筋力増強運動全般が禁忌であると誤解しやすい。混同注意:遠心性収縮など、より筋損傷のリスクが高い収縮様式と混同したり、筋力増強運動が病状を悪化させるという一般的な誤解と混同したりしやすい。
- 4. アンビューバッグは、自己で呼吸が困難な患者に対する一時的な補助換気(用手換気)に用いられる医療器具であり、呼吸練習のために日常的に使用するものではありません。呼吸機能が正常な患者が呼吸練習のために使用することは適切ではありません。正しくは:呼吸筋の筋力低下がある場合は、深呼吸練習や腹式呼吸練習、呼吸補助具(例:呼吸筋トレーナー)の使用、また必要に応じて非侵襲的陽圧換気(NIPPV)などが検討されます。選びやすい理由:呼吸苦やSpO2低下がないという情報を見落とし、「呼吸」というキーワードから呼吸器リハビリテーションの一環として適切だと考えてしまう。混同注意:実際に呼吸困難がある患者への対応と混同したり、アンビューバッグの本来の目的(緊急時の換気補助)と呼吸練習の目的を混同したりしやすい。
- 5. この患者は、MMTで下肢の筋力低下が認められながらも短距離の歩行が「かろうじて」可能であると記載されています。下肢装着型補助ロボットは、このような筋力低下があるものの、ある程度の残存機能を持つ患者の歩行能力を維持・改善し、QOLを向上させる可能性があり、有効な選択肢となり得ます。正しくは:下肢装着型補助ロボットの導入は、歩行能力の維持・向上、活動範囲の拡大、転倒リスクの低減に有効な場合があります。選びやすい理由:「かろうじて短距離歩行可能」という記述から、まだ歩行能力があるためロボットは不要だと誤解したり、ジストロフィーの進行性という特徴から、いずれ使用できなくなると悲観的に捉えたりしやすい。混同注意:重度の歩行不能者に対するロボットと、軽度〜中等度の歩行障害者に対するロボットの適用範囲を混同しやすい。
国試ポイント
筋強直性ジストロフィーにおける症状理解と、それに対する具体的な理学療法・生活指導の知識が問われています。特に、症状に合わせた禁忌事項や推奨事項を正確に判断する能力が必要です。
混同注意
筋強直に対するROM運動の強度、筋力増強運動の適用、呼吸困難がない場合の呼吸ケアの具体的内容、補助具の適用基準などが混同しやすいポイントです。疾患の進行性という特性から、リハビリテーションの限界を過度に悲観的に捉えてしまうと誤答に繋がりやすいです。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、筋強直性ジストロフィーの多岐にわたる症状(筋強直、筋力低下、嚥下障害、呼吸機能障害など)を正確に理解し、それぞれの症状に対する適切な対応(禁忌、推奨される介入、補助具の適用基準)を問われるでしょう。特に、進行性の疾患であるため、患者の残存機能に応じた個別化されたアプローチが重要であるという視点が問われる可能性があります。
関連知識
筋強直性ジストロフィーは常染色体優性遺伝疾患で、筋強直(弛緩の遅延)と筋力低下を特徴とします。多臓器に影響を及ぼし、心伝導障害、呼吸筋力低下、嚥下障害、白内障、内分泌異常なども見られます。リハビリテーションでは、筋力維持、関節可動域保持、呼吸機能・嚥下機能の管理、ADL指導、転倒予防、装具療法、自助具・補助具の活用が重要となります。過負荷は筋損傷のリスクを高めるため避けるべきです。