脊髄損傷患者のトランスファーボードを用いたベッドから車椅子への移乗動作を図に示す。この動作を獲得目標とする機能残存レベルはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
脊髄損傷患者がトランスファーボードを用いてベッドから車椅子への移乗動作を自立して行うためには、手関節の背屈機能が必須となります。これは、手関節を背屈させることで指の屈筋腱が張られ、物を把持する(テノデーシス効果)ことや、上肢で体を支え、ボード上で体をスライドさせる力を生み出すために重要です。この手関節の背屈筋(長・短橈側手根伸筋)はC6レベルの機能残存によって働くため、自立移乗の最低限の機能残存レベルはC6とされています。
選択肢ごとの解説
- 1. C4レベルの損傷では、横隔膜以外の頸部・肩甲帯筋の機能が大きく制限されるため、トランスファーボードを使った移乗に必要な体幹の安定性や上肢の推進力を得ることが困難です。正しくは:C4レベル損傷では、通常、呼吸管理が必要な場合もあり、移乗動作は全介助または特殊な機器を要します。選びやすい理由:脊髄損傷患者の機能レベルは一般的に上位レベルほど重度であるため、機能獲得が難しいと判断されやすいですが、具体的な動作に必要な筋機能を理解しているかが問われます。混同注意:呼吸機能、頸部の動き、肩の挙上など、より基本的な動作との混同。
- 2. C5レベルの損傷では、上腕二頭筋や三角筋の一部機能は残存しますが、肘の伸展(上腕三頭筋)や手首・手指の機能が失われているため、トランスファーボード上で体を押し上げる力やボードを安定させる操作が不十分です。正しくは:C5レベル損傷患者は、移乗動作において介助が必要となるか、リフターなどの補助具を要することが一般的です。選びやすい理由:C5レベルで一部の肘屈曲や肩の動きが可能になるため、自立移乗が可能であると誤解しやすいですが、ボード移乗にはより細かい上肢機能が必要です。混同注意:食事や着替えなど、他のADLにおける介助量との混同。また、C6レベルで可能となる手首の背屈によるテノデーシス効果との混同。
- 3. 正解。C6レベルの損傷では、手関節の背屈筋(長・短橈側手根伸筋)が機能するため、手関節を背屈させることで指の屈筋腱が張られ、握りしめるような把持が可能となる(テノデーシス効果)。この機能により、トランスファーボードを安定させたり、自身で体を持ち上げたり、ボード上で体を移動させたりするのに必要な上肢の支持力と安定性が得られるため、ボード移乗の自立が可能になります。選びやすい理由:このレベルで多くのADLが自立可能になるため、適切な選択肢です。混同注意:C5とC7の機能の違い、特に手関節の背屈機能の重要性を見落とすと混同しやすい。
- 4. C7レベルの損傷では、上腕三頭筋(肘関節の伸展)が機能するため、C6よりもさらに強力なプッシュアップが可能となり、トランスファーボードを用いた移乗はもちろん、床からの移乗やノンボード移乗も容易になります。しかし、問題文は「獲得目標とする機能残存レベル」としており、C7はC6よりも高いレベルの機能ですが、自立移乗の『最低限』の獲得レベルを問われているため、C6がより適切です。正しくは:C7レベルではボードなしの移乗も可能になるなど、より広範な移乗能力が期待されます。選びやすい理由:C7で上腕三頭筋が機能するため、より安全で効率的な移乗が可能になることから、このレベルを『目標』とするのは自然に思えます。しかし、『目標とする機能残存レベル』が『自立に必要な最低限の機能残存レベル』を指しているため、C6が正答となります。混同注意:C6とC7の機能差、特に上腕三頭筋の有無と、それによる移乗動作の容易さの違い。
- 5. C8レベルの損傷では、手指の屈筋群も機能するため、握力や指の細かい動きが可能となり、トランスファーボード移乗は非常に容易になります。しかし、これもC6やC7よりも高い機能レベルであり、『最低限必要な機能残存レベル』としては適切ではありません。正しくは:C8レベル損傷患者は、手指の巧緻性を要するより複雑なADLも自立して行える可能性が高まります。選びやすい理由:手指の細かな動きが可能になるため、より安全で確実な移乗が可能になることから、これが最適だと誤解する可能性があります。混同注意:C6やC7と、手指の機能の有無によるADLの範囲の広さの違い。
国試ポイント
脊髄損傷における機能残存レベルと、それに伴って可能となるADL(特に移乗動作)の関連性が問われる問題です。各神経レベルでどの筋群が機能し、それによってどのような動作が可能になるかを正確に理解しているかが重要となります。特に、テノデーシス効果による把持能力の獲得がC6レベルの重要なポイントです。
混同注意
C5レベルでも一部の肩や肘の動きは可能ですが、トランスファーボードを用いた自立移乗に必要な手関節の安定性や把持機能がないため、混同しやすいです。また、C7レベルで肘伸展が可能になり移乗がより容易になるため、C6とC7のどちらが「最低限」のレベルであるか判断に迷うことがあります。
次に同じ論点が出たら
次回同様の問題が出た際は、提示されたADL動作がどの身体機能(特に上肢・体幹の筋力や巧緻性、関節可動域)を要求するかを詳細に分析し、その機能を実現するために必要な最低限の神経レベルを判断することが求められます。特に、手関節の機能(背屈、屈曲、橈尺屈)と手指の機能(屈曲、伸展、内外転)が重要な判断基準となります。
関連知識
脊髄損傷のASCI分類(ASIA Impairment Scale)、各神経レベルに支配される主要な筋(キーマッスル)、それらの筋機能がADLに与える影響、テノデーシス効果、座位バランスの獲得、各種移乗方法(ボード移乗、ノンボード移乗、床からの移乗)。