次の症例で難経六十九難に基づく治療を行う場合、上肢の取穴部位として最も適切なのはどれか。「40歳の女性。仕事で自信を喪失し食欲不振と軟便が続いている。倦怠感もある。ここ数日は眠りも浅く動悸を感じる。舌質は淡、舌苔は白、脈は細弱を認める。」
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出典:公益財団法人東洋療法研修試験財団ホームページ(過去の試験問題等)。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
難経六十九難は「虚すればその母を補う」という治療原則を示しており、本症例の心気虚・脾気虚の病態に対しては、心の母である肝、脾の母である心に属する経穴を用いる。五行説において、心は火、脾は土に属し、火生土の関係から火は土の母であり、木生火の関係から木は火の母となる。手の厥陰心包経の募穴である膻中穴、手の少陰心経の募穴である巨闕穴、足の太陰脾経の募募穴である章門穴などが該当する。上肢の取穴部位としては、手掌にはこれらの経穴は存在しないが、心包経や心経の流注が手掌を通るため、手掌部やその近傍の経穴が治療対象となり得る。具体的には、心包経の大陵や労宮、心経の少府や神門などが考えられる。特に、心包経は心主を代行し、気滞や精神症状に有効であるため、労宮(心包経)は精神的な不調や動悸に、神門(心経)は精神不安や不眠に効果的である。これらの経穴は手掌または手掌近傍に位置するため、手掌が最も適切な部位となる。
選択肢ごとの解説
- 1. 指先には井穴や絡穴などがあるが、本症例の虚弱な病態に対して母を補う治療点として、指先の経穴が最も適切とは言えない。例えば、少衝(心経の井穴)は虚熱や精神不安に用いることはあるが、全体的な補虚には限定的である。 正しくは:指先ではなく、より補気の効果が期待できる手掌や手関節周囲の経穴を選択すべきである。
- 2. 正解。本症例は「仕事で自信を喪失し食欲不振と軟便が続いている。倦怠感もある。ここ数日は眠りも浅く動悸を感じる。舌質は淡、舌苔は白、脈は細弱を認める。」という症状から、心気虚・脾気虚の病態と判断できる。難経六十九難の「虚すればその母を補う」に基づき、心の母である肝、脾の母である心を補う治療が必要となる。上肢の取穴部位として、心包経の労宮穴や心経の神門穴が考えられる。労宮は手掌中央にあり、神門は手関節の尺側手根屈筋腱と豆状骨の間に位置する。これらは動悸、不眠、精神的な不調に対して有効であり、手掌または手関節近傍の経穴が治療点として適切である。特に心包経の労宮は精神的な不安定さや倦怠感に、心経の神門は動悸や不眠に効果的であり、これらの経穴は手掌に位置するか、手掌に近接しているため、手掌が最も適切な選択肢となる。
- 3. 手関節には心経の神門、心包経の大陵、肺経の太淵など重要な経穴が存在し、本症例の動悸や不眠、精神症状に対して有効な経穴も含まれる。しかし、「手掌」という選択肢が最も適切な理由は、労宮(心包経)など精神症状に広く用いられる主要な経穴が手掌に位置するためである。手関節の経穴も有効ではあるが、より広範囲をカバーし、かつ本症例の複合的な症状に特に有効な労宮を含む手掌がより適切と考えられる。 正しくは:手関節の経穴も有効だが、手掌に位置する労宮など、本症例に特に適した経穴があるため、手掌がより包括的である。
- 4. 肘関節には肺経の尺沢、心経の少海、心包経の曲沢などがあるが、本症例の心気虚・脾気虚の病態や精神症状に対して、肘関節の経穴が直接的に母子補瀉の原則に基づく主要な治療点となるケースは少ない。これらの経穴は特定の熱証や局所の症状、あるいは経絡病変に用いられることが多い。 正しくは:肘関節ではなく、より母子補瀉の原則に合致し、精神・消化器症状に有効な手掌や手関節周囲の経穴を選択すべきである。
国試ポイント
難経六十九難の虚すればその母を補うという治療原則と、五行説における五臓の母子関係を理解し、具体的な症例に対して適切な経穴部位を選択できること。
混同注意
虚症に対する補法と実症に対する瀉法、および五行における相生・相克の関係性を混同しやすい。特に、本症例のように複数の臓腑が関与する複合的な虚証の場合、どの臓腑が主訴の原因となっているのかを正確に判断し、その母を補う経穴を選ぶ必要がある。
次に同じ論点が出たら
難経六十九難に基づく治療を問う問題が出題された場合、まず症例の病態を五臓の虚実で判断し、虚証であれば五行の母子関係を用いて補うべき臓腑を特定し、その臓腑に属する経穴や関連する経絡上の経穴がどの部位に位置するかを判断する。
覚え方
難経六十九難に基づく治療を問う問題が出題された場合、まず症例の病態を五臓の虚実で判断し、虚証であれば五行の母子関係を用いて補うべき臓腑を特定し、その臓腑に属する経穴や関連する経絡上の経穴がどの部位に位置するかを判断する。
対になる知識
虚症に対する補法と実症に対する瀉法、および五行における相生・相克の関係性を混同しやすい。特に、本症例のように複数の臓腑が関与する複合的な虚証の場合、どの臓腑が主訴の原因となっているのかを正確に判断し、その母を補う経穴を選ぶ必要がある。
関連知識
五行説における相生(木生火、火生土、土生金、金生水、水生木)、相克(木克土、土克水、水克火、火克金、金克木)関係。各臓腑の病態と五行の関係。難経六十九難の治療原則「虚すればその母を補う、実すればその子を瀉す」。募穴、兪穴などの特効穴の知識。